基礎自治体で若手・中堅職員の離職が増加しています。総務省のデータによると、地方公務員採用試験の受験者数は2013~2022年の10年間で約28%減少し、30歳未満の自己都合退職者も2倍以上増加しました。その理由は何か。解決するにはどうすればいいのか。当協議会会員である株式会社INADAの稲田覚・代表取締役会長に、組織のビジョンとマネジメントの観点から語っていただきました。

(稲田会長)行政がやるべきは10~20年先を見据えた投資です。一般的に、自治体の活性化は、近隣の自治体よりも進んでいるか、遅れているかという相対的な評価で図られる傾向にあります。そのため単年度事業の競い合いとなり、お金がなくなるのです。

 自治体は「住民のため」と言います。住民の満足度がCS(Customer Satisfaction=顧客満足)だとすれば、CSのベースになるのはES(Employee Satisfaction=従業員満足)。すなわち行政職員が楽しく働ける環境がなければ、地域住民のために何かをすることはできないということです。行政がまずやるべきは、職員のやりがいが生まれる職場づくりではないでしょうか。自分が楽しい、あるいは元気がなければ、住民へよい働きかけをすることはできません。

 職員に元気がない理由のひとつは、行政が一歩先までしか考えていないことです。単年度による新規事業だけが増えていく状態では職員が疲弊していきます。

 まずは事業仕分けではないでしょうか。不要なものをカットすれば、お金は生まれます。かつて国はやろうとしましたが、地方ではどうだったでしょうか。

 民間企業は、これは儲からないと思えば、事業から撤退します。行政も事業を整理すれば、お金は捻出できるのです。

 具体例として農業の6次産業化を取り上げましょう。6次産業化の「6」とは、1次産業(生産)、2次産業(加工)、3次産業(流通)を足した(1+2+3=6)、あるいはかけた(1×2×3=6)数字であり、農家が農産物を加工して、売りに出すまでのプロセスを指します。農家がそれに取り組むためには、国の補助金や金融機関からの借入で設備投資をしなくてはなりません。

 農業の6次産業化が1990年代半ばに提唱されたとき、私は農林水産省や県、市町村に「なぜ6次というのか」を尋ね、上記のような回答をもらった際、「農業の6次産業化をやると、農家はつぶれる。よい農業政策にはならない」と言いました。

 加工だけでなく、売り先まで考える。農家がそこまでできますか。私はその際、「6次産業は1次(農家)ではなく、3次(流通業者)にさせるべきだ」と主張しました。メーカーや流通業者が加工工場やハウスを建てて取り組む。大企業の農業化。それが6次産業化であると。1+2+3=6ではなく、3+2+1=6なのです。

 関係ありません。流通を握っている企業が取り組まなければならないのであって、農家が規模を拡大する必要はないのです。大規模農業化によって農家が淘汰されたら、ますます日本の農業は衰退していくとの懸念も伝えました。

 出口をもっている大手企業がやるという事例ですね。大手とは「たくさん生産する」からではなく、「市場を握っている」からそう呼ばれるわけで、農家の大規模化を進めるのであれば、農家にではなく、農家と組んだ大手にさせるべきでしょう。

 地域のための事業に行政職員が関わっていったら、仕事のやりがいが生まれるでしょう。冒頭に申し上げた「10~20年先を見据えた投資」は、長期的視点に立った事業に取り組むことで、「できる職員」が「人を育てられる職員」になるというメリットもある。「人を育てられる職員」が増えれば、行政組織は確実に変わります。