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今月のおススメ本は、神馬幸子著『ずっと、ひだまり』みんなにやさしい出版
副題は「認知症と介護を気軽に話せる場所を。五十二歳「あとがない」私がデイサービスを立ち上げた」。家庭の事情から高校を卒業して働き始めた著者が、結婚、子育てを経て、自ら会社を立ち上げ、認知症対応型デイサービ「ひだまり」を運営するまでを綴った書である。
「ひだまり」に配達員が来ると、利用者さんが「うちの者(職員)は、もう対応していますかねぇ。」と声をかけるという。配達員が待ちぼうけをしていないか気遣ってのことだが、介護の仕事をしている人には驚かれるそうだ。利用者さんが外部の方と自然と対応するのはあまりないからだ。ここでは、一般的なデイサービスのように利用者さんがお風呂(入浴)を目的に利用することは多くない。近くにある保育園の子供たちへのプレゼントを作ったり、スーパーへ食材やおやつを買いに出かけたり、地域のイベントに参加したり。施設側が定めるスケジュールではなく、職員と利用者さんが一緒に決める。ルーティンはその日の活動の様子を撮ったものを印刷し、自分のノートに貼り付けるというもの。家族に伝えるだけではない。自分は今日一日何をしていたかを思い出すためだ。「ひだまり」は本人が家族によって「預けられている場所」ではなく、「みんなで作って遊びに来る場所」なのである。
高校卒業後、著者は地元企業の「電算室」に配属され、会社のデータ処理を担った。エラーが出ると原因を突き止め、修正していく仕事から、ある出来事が起こった「原因」をあらゆる角度から考え、その「結果」に対する「納得感」を大事にする姿勢が身についたという。結婚後は寿退社を勧められ、子どもが生まれてからは在宅ワークでポップライターの仕事をし、母親の介護を機に福祉の世界に入る。商業高校時代から多くの資格を取得し、それまで積み重ねてきた経験を活かして日常で生じる困難に対処していく。その先に見えてきたのは、「高い費用をかけて施設に入らなくても、今いる家に住んだまま、それと同等か、それ以上のサービスを受けられるようにすべきだ。」という、自身が取締役を務める株式会社たぬきち商事の掲げる「屋根のない長屋」。ケアの仕組みを地域につくっていくというコンセプトであった。
現在から振り返ると、これまでの経験に何ひとつ無駄なものはないという著者の思いが、「人生に、遅すぎるスタートはありません」という言葉に結実しているのだろう。
「おわりに」に記されたこの一文は、あなたも私たちと一緒に地域社会の新しい形をつくっていきませんかという、まだ見ぬ未来の仲間への著者の呼びかけに聞こえる。(芳地隆之)
