渋谷 雅人(しぶや まさと)さん  認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ ディレクター(地域ネットワーク支援、組織開発)

 商社勤めをしていた渋谷さんは、病気で奥様を亡くされ、息子さんと2人暮らしになった際、グリーフケアプログラムに参加されました。そこでパートナーを失った方々との交流をされているなか、当時住んでいた仙台市でこども食堂が立ち上げられるというニュースに接したそうです。
「自分も何かできるんじゃないか」と思った渋谷さんが、こども食堂の運営者に手紙を書いて、関わるようになったのは2016年のこと。活動を通して、寂しさを抱えている子どもが少なからずいることを知った渋谷さんはむすびえと出会って転職。現在に至っています。理事長の交代を含め新しい経営体制へ移行し、むすびえが新しいフェーズに入っていくなか、渋谷さんに、こども食堂のこれまでとこれからについてお話を伺いました。


――むすびえの概要、財源、活動内容を教えてください。

 「誰も取りこぼさない」という理念のもと、われわれの法人は2018年12月に設立されました。財源の9割はご寄付、助成金で運営しています。主な活動内容は、①全国各地でこども食堂を支えている地域ネットワーク団体の活動の後押し等を通じたこども食堂の支援、②こども食堂を応援したいという企業、団体、行政などとの協働、③調査・研究事業です。
 ①こども食堂は1万カ所まで広がり、2024年には全国都道府県すべてにこども食堂を支援する中間団体――私たちは「地域ネットワーク団体」と呼んでいます――が生まれました。地域ネットワーク団体は、こども食堂の運営者同士の交流、こども食堂の立ち上げの支援、地域のスーパーマーケットや企業へのこども食堂の支援の呼びかけなどを行っており、むすびえはイコールパートナーとしての連携に努めています。
 ②企業、団体、行政などによって、こども食堂への関わり方や支援の方法、財源は違いますが、われわれはこども食堂とそこに集う子どもたち、こども食堂を支援する人たちの「むすびめ」になるよう努めています。
 ③調査・研究事業を通して、こども食堂が社会にどのような価値を提供しているのかを発信し、関わってくださる方を増やしています。
 ご寄付に関しては、通常のそれに加えて最近はふるさと納税や遺贈寄付をしてくださる方も多くいらっしゃいます。おかげで昨年は11億円相当の資金と物資をお届けすることができました。一昨年に行った調査によれば、全国1万カ所のこども食堂を運営するのに必要な費用(人件費を除く)は70億円。物資については企業からこども食堂に直接届けてもらっています。ふるさと納税からのご寄付は2025年12月31日までクラウドファンディング実施中です。

――こども食堂はどのような経緯で生まれたのでしょうか。

 こども食堂が生まれたのは2012年。場所は東京都大田区でした。地元の方々が、子どもたちに「きみがひとりで食べに来てもいいんだよ」というメッセージを込めて命名されたそうです。2009年に厚生労働省が「子どもがいる現役世帯の世帯員の相対的貧困率」が12.6%であると発表したことから、こども食堂はその解決策としてメディアに取り上げられ、「子どもの貧困対策の場」としての認知が高まりました。
 その後、こども食堂は全国に広がり、2016年には300カ所までになりました。草の根的な活動が全国で100カ所以上に広がる例はあまりありません。その後の調査でわかってきたことは、貧困対策として取り組まれている一方、子どもを中心に地域で活動をしているこども食堂が、単身の高齢者や子育て世代のお母さんやお父さんなど、地域の方々を受け入れていくうちに、多世代が交流する拠点になるというケースが全国で増えているということです。

――社会的課題の解決ありきではなかったのですね。

 全国各地のこども食堂を訪ねると、自己犠牲的というより、自分も楽しみながら食事の場を提供している運営者さんと多く出会います。それが、孤食防止や、お母さんの居場所にもなる。近所の高齢者にとっては、こども食堂に元気で通えるよう散歩の習慣をつけるきっかけなどにもなっています。

支援系と交流系の相違点と共通点

――こども食堂が増えることは、国の貧困支援が十分ではないことの裏返しであり、必ずしも望ましいことではないという意見もありますが。

 こども食堂には多面性があって、切り取り方によっていろいろな見方がなされます。われわれが2023年に全国のこども食堂向けに行った調査では、「どなたでもどうぞ」と0歳から100歳まで参加できるこども食堂が全体の67%。実際に高齢者の参加があるこども食堂が53%。また2024年度の調査では年間の延べ利用者数は1,885万人と推計されています。
 しばしば「食べられない子」がいくところと誤解されていますが、多くのこども食堂は多世代が交流する地域の居場所として機能しています。 現在、人口減少や高齢化、多発する災害を背景に住民の願いは個人的非常時に対応してくれる地域福祉や地域の非常時に対応する防災等に移ってきていますが、従来の地域団体はその住民ニーズに必ずしも応えられていません。そこを埋めるべく立ち上がった住民たちがつくったのがこども食堂などの地域の居場所といえます。
 その特徴は多機能であること。子どもの貧困対策から孤食対応、子育て支援や高齢者の健康づくり、そして地域のにぎわいづくりを担っています。また、コロナ禍においては平時のつながりづくりに従事していたこども食堂の約半数が食材弁当配布を行い、非常時のセーフティネットとして機能しました。災害多発列島となった日本において平時、非常時を貫くコミュニティづくりのひとつのあり方を示したといえます。
 地域には子どもを真ん中に地域の誰もが参加できて、みんなで子どもたちを包み込む場所(交流系の居場所)と、対象を限定してその対象の子どもたちに合った機能を届ける場所(支援系の居場所)の両方が必要なのだと考えています。前者は、子ども真ん中にみんなで一緒にごはんを食べるなかで関係性が育まれ、そこから適度なお節介が生まれる。いわば目的を持って参加する場所ではなく、一人ひとり結果としての目的が後付けに見つかる場所。後者は目的に応じて開く場所。後者は公金を投入しやすい場所だと考えます。前者に公金を投入することは、共助の広がりに水を差すことにもなりかねないなと考えています。

――子ども以外がこども食堂に来るような工夫をされているのでしょうか?

 地域のみんなに参加してほしいと願って開催している鳥取県のこども食堂の運営者から伺った話。「こども食堂」というと、こどもの貧困対策の場所と思われてしまうので、名前を「地域食堂」にしようと考えたことがあったそうです。その際、地元のおじいさんから「『地域食堂』だったら来ない」と言われた。こども食堂に来て、子どもたちにプレゼントを渡すのを手伝ったり、子どもたちに「また来てね」と言わたりするのがうれしい。それが高齢者だけの居場所だったら行きたいとは思わないというんですね。
 こども食堂が「食べられない子がいくところ」というイメージを払拭するにはまだまだです。私たちは2023年度から3年間ACジャパンによる支援キャンペーンに採択いただき「こども食堂はみんなの居場所」「こども食堂はあなたの食堂」「食べたらみんな仲間!」というメッセージを発信してきました。年齢や立場をこえて、人と人がつながれる場でもあることをもっと多くの方に知ってほしい、そんな願いを込めています。

――福祉事業所との相乗りのような運営はあるのでしょうか。

 山形県のある高齢者デイサービスセンターでは、夕方以降は施設を使っていないので、地元の方がそこを借りて、こども食堂を運営しています。そのような連携は各地で耳にします。介護サービスを提供するSONPOケアでは、運営する全国470カ所の介護付きホームなどで、こども食堂を開き、地域住民の多世代交流拠点としています。高齢化率が高く、年少人口割合が低い地域では、「子どもが少ないし、こども食堂よりも高齢者へのサポートが喫緊の課題」との話を聞くことがあります。こども食堂が高齢者福祉にもつながる多世代交流拠点なのだとご説明することで、認識を変えてくださいます。最近では、社会福祉法人、お寺や保育園がこども食堂として地域に開かれた場所になっていくケースもたくさん生まれています。

ソリューションはあとからついてくる

――こども食堂のスタートは「子どもがひとりでも行けるところ」というものでしたが、地方では移動手段の問題がありますよね。

 こども食堂までの距離が遠い方向けに社協が連携し、車を出してくれるという事例を聞いたことがありますが、限られた特殊なケースです。私たちはこども食堂の箇所数調査をし、一小学校区あたりでこども食堂がある割合を算出しました。結果(2024年12月時点)は、全国の公立小学校約1万9,000校のなかで、こども食堂がある校区は全体の35%でした。全小学校区の3分の2にはこども食堂がないのが現状です。望めば子どもたちが自分の足で行けるこども食堂があっちにもこっちにもある社会を実現したいです。

――小学校を利活用するケースはあるのでしょうか。

 既存の小学校で「朝ごはんこども食堂」をやっているところがあります。朝食をとっていない子どもは学習能力が下がるという調査結果があり、家庭の事情で朝ごはんを食べられない子どものために、地域の方が家庭科室を借りて提供しています。⼤阪府泉佐野市では、こども朝食堂(学校で朝ごはんを提供)の実証実験での成果確認を経て市内の13校に展開する動きになっています。まだまだ数は少ないですが、全国各地で朝ごはんこども食堂をやっている事例は増えてきています。
 また「、シリアルコーンフレーク」のケロッグが「毎日朝ごはんプロジェクト」を立ち上げ、全国に広がる朝ごはんこども食堂を継続的に応援する取り組みをしています。

――こども食堂は毎日開いているわけではありません。地域の居場所になる難しさがあると思うのですが。

 全国のこども食堂のうち、月1~2回開催するところが全体の約70%(2023年むすびえ調べ)です。地元の公民館などを借りて開催しているところも多く、いつでもふらりと立ち寄れるところではありません。しかし、居場所感が生まれるかどうかは、そこに人との関係性があるかどうかだと思います。そこに行くと、見守られている、尊重されている、人とつながっていると感じられる空間。月に1回でも、「そこに行けば顔見知りの人に会える」と思えることが大事なのではないでしょうか。
 不登校の子が親に勧められてこども食堂に通うようになり、そこで高齢者の方々と仲良くなって、「このじいちゃん、ばあちゃんを一生面倒みたい」と介護専門学校に通い始めました。こども食堂に通っていた子どもが中高生になってジュニアボランティアをしてきてくれる、ボランティアをしてくれた大学生が「おかげで地域に愛着を感じるようになった」という振り返りのリポートを書いてくれることもあります。人はだれでも人を助けたいと心では思っている。けれども出会う場がないので発動しない。こども食堂があることでその思いに着火する。そうした各地で起こる漣(さざなみ)が今や大きなうねりになってきているのだと思います。
 私が講演会で、こども食堂の社会的価値について話をした際、ある方から「こども食堂に来る人はソリューションを求めて来るわけではないこともセットで伝えてほしい」といわれたことがあります。地元の方々が制度の裏付けがないなかで、「ほっとけない」と思って始めたこども食堂は、「みんなでご飯を食べようよ」が始まりで、運営者は「おいしい、おいしい」と子どもが食べてくれるのがうれしくて食事をつくり、ボランティアの方は訪れる人のお世話やお節介を焼く。そうした活動が地域づくりにつながることをもっと周知していきたいと思います。 (聞き手 芳地隆之)

認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ ディレクター
(地域ネットワーク支援、組織開発) 渋谷 雅人さん