4月12日に「地域医療最前線NOW」というオンラインのセミナーが開催されました。主催は福井県の在宅医療専門クリニック「オレンジホームケアクリニック」を運営する医療法人社団オレンジ。同社団が6月1日に石川県輪島市で開業する「奥能登ごちゃまるクリニック」は何を目指しているのかをテーマに、同社団の理事長である紅谷浩之さんと、「オレンジホームケアクリニック」の家庭医として「奥能登ごちゃまるクリニック」に関わっていく小浦友行さんとの対談が行われました。

地域医療とは何か。小浦さんは「人が生活を営む場で行う医療やケア。その人の送ってきた人生、これからの人生に寄り添い、地域の歴史や風土など、地域をまるごと看ること」。紅谷さんは「病院では患者さんの生活感を排除します。自分の好きな服は着られないし、人生の時間軸も必要なく、いまここでの身体の状態を評価する。それに対して、地域医療はそうした垣根を取り払って、その人のご先祖様から子孫までをも視野にいれること」といいます。

また、小浦さんは「医者と患者だけの関係ではなく、そこに民生委員や町内会の人たちも入って、みんなで(ごちゃまぜ)取り組んでいきたい。自分は家庭医として医療の専門分野の縦割りを越えて、総合的な診療(まるごと)を行いたいと思っていた」とのこと。だから「ごちゃまる」クリニック。それを日本のなかでも超高齢化と人口減少がすごいスピードで進んでいる奥能登で運営する。いわばへき地医療です。ここでいう「へき地」とは、「医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点として概ね半径4kmの区域内に50人以上が居住し、かつ容易に医療機関を利用できない地区」を主に指すのですが、紅谷さんは「いまコロナ禍で大都会でも医療措置が容易には受けられなくなっています。ということは日本全国がへき地医療状態になっているともいえる。その意味でも奥能登は日本の最先端であり、全国のモデルになると思っています」

コロナ以前、地域の病院では待合室が地元の高齢者の方々が診療を待っている間、世間話をする「居場所」になっているところもあって、診療に来ない人がいると、「○○さん、具体が悪いのかしら?」と病院に来ている人に心配されるという笑い話があります。紅谷さんも小浦さんも、外来を「しんどい人がしんどい思いをして病院にくるのはおかしい。しんどくない医者が出向けばいいのではないか」と口をそろえます。そして、「病院で見る患者さんと、自分の家、職場、畑で会ったときの患者さんでは表情は違う」とも。

2人は在宅医療の先を見据えているようでした。たとえば「まちの保健室」は、こどもから高齢者まで、心や身体の気になることや悩みを看護職の方に気軽に相談できるところですが、場所を限定せず、看護職の方がいるところでそれができれば、「いつでも、どこでも保健室」となる。医師が八百屋さんに買い物にいった際、ご主人に身体の具合を尋ねたり、道端で会った時にその人の悩みの相談に乗ったりすることは、「地域での診療」になるかもしれません。

まち全体がそうなるには医療やケアの専門家だけでは不十分で、他の専門職――たとえば不動産や金融、IT、観光、健康づくり――も必要になるではないか、との私の問いに、小浦さんは、

「思いのある人ならばいっしょにできることがあります」

「奥能登ごちゃまるクリニック」は分野横断的な試みです。クラウドファンディングもスタートしたとのこと。詳しくはこちらをご覧ください。

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