著者は趣味のゴルフから話を始める。あるとき90代の4人組のパーティをゴルフ場で見かけた。皆さん元気そうで、聞けば、30~40代から続けているという。頭も冴えているようだった。コロナには一度もかからなかったそうだ。そこで著者が注目したのは、彼らがよく歩くことだった。ときには小走りで移動する。そこから歩く習慣のない人は、認知機能が低下するだけでなく、免疫力(抵抗力)も低下することを説いていく。
 認知症は「脳の糖尿病」とも呼ばれるという。糖尿病は認知症になる最大のリスク要因であり、歩くことに加えて、食事療法――炭水化物の割合を減らし、たんぱく質のそれを増やす――が大切だ。「こまめに歩く」と「砂糖菓子を避けてバランスよく食べる」ことが予防の基本であり、高齢者の病というよりも、若年期や中年期における生活習慣がもたらすものだといえる。
 歩き方にもコツがある。下腹を意識し、背筋を伸ばし、かかとから着地して腰を素早く前へ運ぶ。腕は前ではなく後ろへ引くことを意識すると、姿勢が整い、骨盤のひねりが大きくなり、歩幅も広がる。この一連の動作だけでも認知症予防、免疫力の向上、さらには幸せな表情が生まれる。とりわけ幸せホルモンと呼ばれるセロトニンは、太陽の光を浴びることで分泌が促される。また、ビタミンDの生成も助けられるので、朝起きてカーテンを開けて日光を浴びて、外を散歩すれば、幸せな気分になり、それが自ずと顔に出るのである。
 いますぐ試してみよう。
 そもそも動物は移動することが本能であり、快楽だ。魚も鳥もそう。海で泳ぎまわり、空を飛び交う。人間だって同じ場所にずっと居続けることは苦痛だろう(だから刑罰の対象となった者は移動を制限される)。私たちには移動という本能や快楽が備わっているのだから、それを習慣化すればいい。ただし、毎日1時間などという高いハードルを設定したら挫折するので、数分でいいから「ちょこまか歩く」ことから始めてみる。
 いいアイデアが浮かばないとき、悩んでいるときは、歩きながら思考を巡らせればよい。脳内に新たな回路が生まれ、じっとしていたら浮かばなかった発想が生まれるかもしれない。
 病気は自分で予防しケアする時代。私たちが見直すべきはセルフメディケーションである。決して難しい健康法で
はない。30年以上、患者と向き合ってきた町医者がたどり着いた結論は、「迷ったら歩け」である。 (芳地隆之)