官民連携による「生涯活躍のまち」事業における民間企業の役割は様々です。本コーナーでは「生涯活躍のまち」事業に賛同し、地方創生に取り組む企業の方に登場いただき、現在の活動や今後の課題について紹介していきます。

「生涯活躍のまち」構想を進める自治体の悩みには、「課題がどこにあるのか、どこから取り組んでいけばいいのかがわからない」というものがあります。地域には事業者や住民、議員など様々な関係者がいて、時として互いの利害がぶつかる。そんななかでどうやってみんなで問題意識を共有するか。富士通は製造業のイメージが強いのですが、ハード、ソフトに関わらず、同社の一貫している姿勢はお客様視点で困りごとを解決していくということ。その最前線に立つフィールド・イノベーション本部の大竹さんより、その業務内容について伺いました。

(おおたけ・じゅんいち)大学卒業後、富士通グループ会社に入社。インフラ設備等の監視制御システムの設計に従事後、品質管理、損益管理に従事。富士通株式会社に転社後も損益管理に従事し、2020年4月より現職。地域課題の解決に向けた活動に取り組んでいる。

——ご所属先のフィールド・イノベーション本部はどのような業務に取り組んでおられるのですか。

 2007年に「ソリューションやICTを提供するだけでは、お客様にとっての価値向上には繋がらない。われわれが納めたモノやサービスがその後、どのように使われているのか、お客様は効果を実感しているのか、ひいては価値の創造につながっているかを見極めなければならない」という方針で、課題を明確にするための徹底した現場主義と、お客様と一緒になって改善していくというお客様重視の活動が始まりました。

 お客様は企業であったり、地域(自治体)であったりしますが、私たちはそこにある課題領域をフィールドと捉えています。改革は、人(意識と行動を変える)とプロセス(業務の流れを変える)とICT(活用の仕方を変える)が三位一体となって実行していかないと、本当の意味での改革には繋がっていきません。そのための改革をお客様と一緒にさせていただくのがフィールド・イノベーション(FI)です。FI活動は、私たちが第三者として観察することで、課題を可視化し、新たな気付きを与え、お客様に問題意識を持っていただき、新たな知恵を引き出して課題解決に向けた活動を行うことです。言い方を変えると、人の課題認識を変え、業務プロセスを見直し、さらにICTを活用することでより効率的に改革する取り組みのご支援を行っています(図1参照)。

 また、私たちのご支援内容は、業務改革だけでなく、事業の企画支援活動にも取り組んでいます。

 FIを実行する人材を「フィールド・イノベーター(通称「FIer」=エフアイヤー)」と呼んでいます。社内の各部門(総務、経理、営業、開発、SEなど)の経験豊かな幹部社員の中から選抜され、1年間、イノベーションマインドや可視化技術、合意形成力などのスキルを学び、実践活動を通して改革のプロフェッショナルな人材として認定を受けます。

 私は、グループ会社の介護現場をフィールドとして、ICTを活用した介護業務の効率化支援の実践活動を行いました。一定期間お客様先に常駐させていただき、介護業務を観察して現状を可視化し、お客様と気付きを共有。課題解決に向けた取り組みを担当の方々と一緒に実施し、効果を見える化することで成果を実感していただきました。

——エフアイヤーとして、現在はどのような分野での取り組みをされているのですか?

 現在、私は、ヘルスケアFI統括部に所属しており、病院医療の改革を推進しています。近年は、病院医療から在宅医療、すなわち地域包括ケアへ移行する中で地域全体に目を向け、健康医療という形で地域の課題解決に貢献しています。

 病院医療から地域医療・在宅医療に変革する中、患者が、在宅に移っても、病院と在宅の患者をつないだオンライン診療、オンライン服薬指導を受けれるシステムの実現に向けたご支援をしています。そして、安心して健康で生活できるまちづくりを目指し、その結果として医療費削減にも貢献しています。そういう世界を実現するICTとして、富士通は、地域の医療機関をネットワークでつなぐ商品「HumanBridge」を提供し、病院、診療所、薬局、介護施設をシームレスでつなぎながら在宅の患者ともオンラインでつなぎ、診療できる社会を目指しています。今後は、AI技術を活用した予防分野も強化し、地域の健康寿命のさらなる延伸に貢献していきます。また、情報基盤(HPP:Healthcare Personal service Platform)を提供することで、健康・医療・介護・生活・活動情報を集め、安全に保管し、それらの情報を活用するサービスのモビリティ、フィンテック等の外部システムと連携して未来型の新たなまちづくりに向けた活動もしています。私は、このような構想を実現するための企画支援を担当しています。

——FI本部には他にもどのような領域があるのでしょうか。

 ヘルスケアの他に、自治体(行政)、教育(文教)、製造(産業)、流通、金融、それぞれの業界の課題領域を担当するFI統括部があります。地域の課題解決のために他の業界のエフアイヤーと連携して活動を推進することもあります。

——地域に入って行く場合、一企業として中立的立場を保つことの難しさはありませんか。

 エフアイヤーは最適なソリューションをご提案しますので難しいということはありません。お客様が抱えている課題を解決するためには何が最適かを考え、弊社のソリューションをご提案することもあれば、他社と組み合わせたソリューションをご提案することもあり、お客様と一緒になって考えています。

——現在はどのような事業に取り組まれているのですか。

 ある自治体のスーパーシティ構想の事業企画支援に取り組んでいます。内閣府がスーパーシティ、スマートシティを推進している中で、地域創生に取り組んでいる自治体のスーパーシティ構想にて、自治体の総合計画に照らし合わせ、住民目線で課題を整理。様々な企業と連携することで、新しい価値を提示して、地域が目指すまちづくりに貢献できるよう、事業企画支援を行っています。

 また、各地域の「生涯活躍のまち」の支援サービスとしては、アドバイザー活動後のお客様の事業化に向けた取り組み支援のご提案を行っています。様々な地域課題に対し、課題整理、施策立案、事業企画支援というステップを踏んで、お客様と一緒に関係者と協力しながら事業化に向けた活動をご支援していきます(図2参照)。

 スーパーシティ構想、スマートシティ、生涯活躍のまち等の活動を通して、住民目線での課題整理から取り組み、課題を明確にしたうえで何について取り組むべきかを検討し、課題解決に向けた施策の取り組みをご支援することで、住民の方々に喜んでいただけるようなまちづくりの実現に貢献していきます。

——お客様は自治体が多いのでしょうか。

 自治体から地域全体の課題解決を求められる機会が多くなってきています。課題解決に、様々な企業を巻き込む必要があり、自治体だけでは企業の取りまとめに手間がかかるので、その部分の支援を求められています。

——地域への入って行き方は「生涯活躍のまち」アドバイザー※の役割と重なるところが多いですね。

※内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局主催の「生涯活躍のまち」アドバイザー研修の受講者。「生涯活躍のまち」の機能(交流・居場所、活躍・しごと、住まい、健康、人の流れ)を理解し、「生涯活躍のまち」事業を進める自治体や事業者に対し、自らの知見を活かしたアドバイスをする人材。

 地域に入って観察をし、インタビューで事実確認を進め、事実が見えてくることで本質的な課題を明らかにする。そうした活動プロセスは同じです。私たちはさらに、人、プロセス、ICTの観点から課題を整理し、業務改革のための施策を立案して、皆さんと一緒に施策を実行していきます。

——官民連携を進める上での難しさにはどういうものがありますか。

 「何をすべきか」はわかっていても、「何から取り組めばいいのかわからない」というケースが多いことです。地域課題が多様化しており、自治体だけでは地域課題を解決できない問題も多くなってきている。そのため、民間の知恵を得て、官民が一緒になって取り組む必要があり、課題が大きくなってきていることから今まで以上に一体感を持って取り組む必要があります。

 自治体の運用システムのデジタル化が求められていますが、実態はまだまだアナログ運用が多い。段階を踏んでデジタル化をしていくためにも民間の知恵を使って導入を進め、住民の利便性向上につなげ、住みやすいまちを実現することが必要ではないでしょうか。

 自治体との連携でいえば、こちらからご提案活動はしてもお客様からお声がかからないと、私たちだけで地域には入っていけません。いかにはじめの一歩を踏み出していただくか。自分たちでは無理そうだと思ったら、「生涯活躍のまち」を進める中間支援組織などを通してエフアイヤーを使っていただきたいです。私たちであれば、住民目線での課題整理ができます。そして、最終的には最適なソリューションを一緒に選び課題解決をご支援します。

——ちなみに大竹さんはリモートワークがメインになっていると聞いています。働き方が変わると、地方でリモートワーク、そして地域貢献ということが可能になると思われますか。

 弊社ではリモートワークを推進しており、業務への支障はほぼありません。業務内容にもよるとは思いますが、地方でリモートワークを行いながら、地域貢献も行うことは可能になると思っていますし、個人的には大賛成です。自分が地域に住むことで地域貢献にもつながり、休日に何かの地域活動に参加できれば住民の方々にも喜ばれる。ひいては企業価値を上げることになるでしょう。ただし、そのためには企業としての取り組みが必要です。それと家族の協力。営業日だけの滞在だと地域活動に参加できません。1カ月から半年くらいの一定期間滞在するとなれば、家族の理解も必要になるので、企業の取り組み、家族の協力という課題がクリアできれば可能だと思います。

(聞き手 芳地隆之)