全国で唯一の「アキバ系知事」(?)を自称する東京神田生まれの著者が、2007年に全国の都道府県で人口が最も少ない鳥取県の知事に就任してからの奮闘の記録である。所々に「スタバはないが、日本一のスナバはある」(鳥取が唯一スターバックスの進出していない県だった当時のコピー。現在は進出済み)、「カニの水揚げ日本一の鳥取県へ、ウェルカニ!」(代表的なのは松葉ガニで、「鳥取県」改めて「蟹取県」に改名)など、ダジャレを散りばめた本書は、読者の脱力を誘いつつ、著者が進める県政に引き込んでいく。

 それは「小さい」を逆手にとった戦略だ。企業の誘致や地元企業の振興においても、トップの主導による県独自の支援策をもって進めれば、企業が何を求めているのかを把握し、スピード感をもって対応できる。2012年にクレジットカード会社のJCBが鳥取市に事務センターを開設したのはその成果のひとつだろう。

 「智頭町(ちづちょう)の森のようちえん」(自主性を尊重し”見守る保育”を徹底して行う)への対応も素早かった。園舎のない森のようちえんは国の基準を満たさない施設とされ、保育園とも、幼稚園ともみなされなかった。したがって厚生労働省や文部科学省の補助金等の対象にならず、保育料、町からの補助金、鳥取県森林環境保全税などで運営されてきた。しかし、子育て世代から支持されている現状を知った著者は、「県民自らが政策の案を練り、それを自治体が執行、支援していくという、住民参画の究極となる先進的な行政手法」である「アドボケイト・プランニング制度」を適用。保育所等の経営支援制度を県として設けたのである。都道府県初の常設型住民投票制度は著者が目指す「透明性の全国ナンバーワンの鳥取民主主義」の一環だ。これらはいわゆるお役所体質を知事がリーダーシップをもって乗り越え、実現してきたケースといえるだろう。

 連発するダジャレは著者のサービス精神の発露だけではない。知事として骨太な政策を推し進めてきた自負があってこそのPR戦略なのだ。ちなみに、スタート当初は首都圏の高齢者の移住に特化した感のあった日本版CCRCを、著者は、「長寿(C)に挑戦(C)楽天(R)地(C)」と読み替えている。

 「小さい」をハンディキャップととらえた時点で進歩は止まる。

 “It always seems impossible until it’s done”(達成するまで、それは不可能に見える)。

 著者は最後に反アパルトヘイトの闘いを繰り広げた南アフリカ初の黒人大統領、ネルソン・マンデラの言葉を引用する。マイナスと思われているものをどうプラスに転化するか。地方創生を進めるにあたっての重要な発想である。

(芳地隆之)

小さくても勝てる〜「砂丘の国」のポジティブ戦略(平井伸治/中公新書ラクレ)