官民連携は国や地方自治体と民間企業や市民が、それぞれの強みを生かしながら地域課題の解決に取り組む考え方や仕組みをいいます。地方創生においても頻繁に用いられる言葉ですが、その役割分担はさまざまで、具体像は意外と見えにくいのではないでしょうか。本インタビューに登場いただく香川県三豊市の山下昭史市長は民間企業出身。「官」と「民」の双方を知る山下市長に、行政の果たすべき役割を中心に語っていただきました。

――市長が就任された2017年12月から現在までを振り返って、地方創生という観点から、どのようなところがよかったと思われますか。

 地域課題が山積しているなか、ネガティブになるのではなく、チャレンジする可能性が広がったことです。「ここまで来たら、思い切ったことができるんじゃないか。」と。従来の市役所の壁を突破するには、これまでと同じような発想や手法ではダメだと考えました。
 これは前職(瀬戸内海放送の記者)で培われたものだと思います。「当たり前を疑え」ということを叩き込まれました。同じものでも、正面、横、裏から見ると全然違います。一方的な見方で記事を書いて、痛い目にあったこともあるので、「ここに花瓶があるが、これ本当に花瓶なのか。」と考える癖が身についているのです。
 市長になって地方創生について考えたとき、旧来のルールも特効薬もありません。だから「何本か矢を放って、1本当たればいい」と考えるようになり、気が楽になったところもあります。私は職員に「3割バッターを目指さなくていい。政策を打ち込んで、10打数1安打でもいい。大成功だから。」と言っています。

――これまでにどんなヒットがあったのですか。

 たとえば2019年4月に、人工知能(AI)を用いて地域課題を解決し、新たな地方創生をめざすため、東京大学大学院 松尾研究室みとよサテライトとして、「みとよAI社会推進機構(MAiZM)」を設立しました。ここは、AI・ディープラーニング技術を活用できる地域人材の育成および事業創出支援、地域や企業が抱える課題をAI・ディープラーニング技術を用いて解決することによる社会の活性化への寄与を目的としています。
 同機構の理事である東京大学大学院の松尾豊教授は、私の高校の後輩で、AIの第一人者です。10年以上前から「AIで日本は絶対に立ち遅れるから、今から取り組んでおくべきだ。」と言っていました。世の中では、まだ「AIって何?」と言われていたころです。私は同機構の会長に就任したのですが、AIのプレゼンスがここまで大きくなった現在、市役所の職員だけでなく、市民も「AI って、市長が言っていたやつか。」というように、AI に対して、いきなり現れたエイリアンみたいな感覚はないと思います。
 もっとも、こうした挑戦を行政だけで進めるには予算上の限界があります。だから私は「民間企業にお金を出してほしい」と言ってきました。企業は自社にメリットがあれば、資金を提供するわけで、一緒に取り組めば、少ない予算でもある程度の成果は出せると思ったからです。
 たとえば、ダイハツ工業株式会社とは2019年に連携協定を締結し、通所介護施設の送迎を共同で行う「ゴイッショみとよ」を共同展開しています。同社の運行管理システムを活用し、高齢者デイサービスに加え、2026年からは放課後等デイサービスの送迎もシェアして効率化を図っています。
 また、NTT西日本とは「自動運転に関する包括連携協定」を締結し、自動運転EVバスの実証運行を実施しています。これは、交通事業者が抱える運転手不足や移動困難者が抱えるラストワンマイルなどの課題に対し、「行きたいときに 行きたいところへ行けるまち」の実現をめざすものです。
 民間企業にも、人口減少社会において、既存のサービスだけでは食べていけないという危機感から、将来的な収入源、売上につながる新しいビジネスを開拓したいという意向があり、本市には現在、40社以上が参入しています。
 本市の人口は(2026年6月現在)約5万6,000人です。日本に約1,700ある基礎自治体のうち約800は人口が6万人前後で最大のボリュームゾーンであり、三豊市で成立したビジネスモデルは横展開が可能ということです。市内に平野部、中山間地、沿岸・島しょ部といった、様々な分野の実証フィールドがあるという強みもあります。

――市長はこれらの動きを「官民連携」とは言わないですね。

 たとえば、かつてはただの海水浴場だった「父母ヶ浜」がインスタ映えを機に、いまでは多くの観光客が訪れるスポットになっています。そうすると市の職員からも建物を建ててテナントを入れようという声が上がるのですが、このように盛り上がった時の市の方針は「何もしない」。行政はつい首を突っ込みたくなりますが、私たちに企業経営はできません。プレーヤーではなく、後方支援と環境整備に徹することが大切です。たとえば規制緩和。地域の「ニーズ(needs)」には応える。一方で、「ウォンツ(wants)」は行政がきっかけをつくらなければ見えてきません。地元と企業のつなぎ役になることが行政の役割だと思っています。

父母ヶ浜(ちちぶがはま)での幻想的なリフレクション写真

――もっとよくなる三豊市のためには何が必要とお考えですか。

 教育です。現在、小・中学校では探究学習などを導入しています。AIが常に進化しているなか、自分で物事を考えて、自分で結論を出す、自分で課題を解決する方法を探る、そのために仮説を立てるという能力がより重要になってきています。そうした問題意識から、まずは小・中学校で「バカロレア教育※」に取り組むことにしました。

※ 国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)教育とは、スイスの国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラム。自ら問いを立てて探究する学習スタイルを重視し、世界中で通用する大学入学資格とグローバルな視野を持つ人材の育成を目的としている。

 一方、高校はまだ閉鎖的で、進学校では今も「東大、京大に何人合格しました。」「早稲田・慶応に何人入りました。」といった数字が学校の評価基準になっています。そうなると、中学校まで探究学習をしていながら、入学した高校が「あなたはどの大学行きたいの。そのためにこうしなさい。」という旧態依然では元も子もありません。
 市内にある香川県立笠田高校は、地元企業で、日本有数の冷凍食品メーカー「株式会社味のちぬや」と食品ロス削減や地域連携のための取り組みをしています。業務用コロッケ日本一の生産量を誇る同社は、北海道足寄町に工場を持っており、今年の8月から笠田高校の生徒がインターンシップに参加します。地元の子どもたちに「農業に目を向けてほしい」というのが「ちぬや」さんの思いです。笠田高校としては、生徒が学校の枠に囚われず、社会と触れ合う機会となります。本市の農業は10a~20aの経営規模ですが、足寄町では広大な土地でジャガイモをつくっています。生徒の視野が広がって、「農業っておもしろいな」と思ってくれるかもしれません。「学校は学校」「地元企業は地元企業」という壁を取っ払うことができるのは行政だけだと思います。

――それによって住民に主体性が生まれるのですね。

 首長のなかには「何でも市役所に言ってきてください」「何でもやります」という方もいらっしゃいますが、それでは現場で対応する職員が疲弊します。
 私は人口減少のひとつの解決策は「シビックプライド」だと思っているんです。直訳すれば「自分のまちに対する誇り」「住んでいて、よかったという思い」なのでしょうが、それを掘り下げていった先にあるのは、「当事者意識」ではないでしょうか。本市では、祭りに参加する人が減っている傾向にありますが、祭りじゃなくても、「なにかやろうか」と何人かが集まるような土壌をつくっていかないと、コミュニティが立ち行きません。昔のような自治会や向こう三軒両隣的なものではなくても、小さなコミュニティが生まれて、「市役所も知恵を貸してよ」と言ってくれるような、住民が自分たちでなんとかしようと思う人たちを育てなくてはなりません。それが私のいう「シビックプライド」です。

――そのようなコミュニティが生まれるヒントとして、市長はヨーロッパの広場を例に挙げられたことがあります。国籍も人種も違う、いろいろな人が集まっている場では、いい意味で「埋没感」を抱けると。

 20年前に7つの町が合併して生まれた三豊市ですが、行政区域が変わっただけで、実際の生活は変わりません。そのエリアのなかに雑多な「ごちゃまぜ」の空間があったとしたら、解放される気分を味わえるのではないか。それを私は「埋没」と表現しました。
 たとえば米国のロサンゼルスやサンフランシスコにあるリトルトーキョーやコリアンタウンを訪れると、「自分はジャパニーズだ」と意識することになります。ところが、ヨーロッパの市庁舎や教会のある広場で、多種多様な人が行き来するなかで、お茶を飲んでいたりすると、One of Them。大勢のなかのひとりとしてそこにいるだけで、自分のアイデンティティを過度に意識しなくて済むのです。

――まちなかでは技能実習生をはじめ、多くの外国人を見かけるようになっています。

 自分の生活圏に全然違う人が入ってくると、いままでの束縛とか縛り、自分に課していた「近所の手前、こうでなくてはいけない」という意識から解き放たれる感覚も生まれる。そのような空間が人を呼び寄せるのではないでしょうか。様々なルーツをもった人がいる場が、閉鎖性を薄めていくケミストリーを起こすのではないかと思います。

――ある方は居場所というのは「DO」ではなくて、「BE 」でいられるところと言っていました。交流しなくてもいい。そこに人の気配がするだけで居心地のよさを感じられるんだと。

 別に誰かと関わらなくても、そこにいることを当たり前として受け入れてくれる。それが「BE」に近い感覚だと思います。

――今後の市政の方向性についてお聞かせください。

 理想は「小さな政府」です。本市には地域の文化・スポーツ活動の振興や、学校部活動の地域移行、市の課題解決などに取り組む「三豊市文化・スポーツ振興事業団(通称:ミクスポ)」や市内における持続可能な移動サービスの構築、通所介護施設などの共同送迎事業などを担っている「みとよ交通システム事業団MiLAIS」など、いわゆる「一丁目一番地」的な政策は、市役所の業務から外しています。冒頭でお話した「みとよAI社会推進機構(MAiZM)」もそうです。なぜかというと、市役所の職員には温度差があり、かつ人事異動で担当者の交替が続いて、10年後にはどこに行ったのか分からなくなる、という事態を避けるためです。役所が注力すべきは、民間企業にとっては不採算になりうる医療や福祉の分野ではないでしょうか。

――国に対する要望や伝えたいことがあれば、お願いします。

 地方がやろうとしていることへのバックアップです。前述のNTT西日本などと共同で実施する自動運転EVバスの実証運行事業は、国土交通省の「地域公共交通確保維持改善事業費補助金」を活用しましたし、「宝山湖ボールパーク夢いっぱいプロジェクト」の推進や公園管理運営などにも国庫補助金が充当されています。しかしながら、市役所には概して国庫補助などを積極的に取りに行こうという習慣が希薄です。国とのコミュニケーションをもう少し密にして、「これだったら使えますよ」といったアドバイスをいただければありがたい。地方には挑戦したいという思いがあります。その挑戦を後押しする伴走者として国に期待しています。(聞き手 芳地隆之)

やました あきし●1966年9月生まれ。香川県立丸亀高等学校、國學院大學経済学部卒業。1990年4月株式会社瀬戸内海放送入社、2009年9月株式会社瀬戸内海放送退社。2011年4月香川県議会議員(初当選)。2015年4月香川県議会議員(2期目)。2017年12月三豊市長。現在、3期目。