東京都豊島区保健福祉部長
常松洋介さん

つねまつ・ようすけ●豊島区保健福祉部長。環境政策課長、福祉総務課長、健康担当部長などを経て現職

豊島区の横顔
●面積:13.01㎢(23区中18番目)
●住民登録総数:290,823人(23区中14番目)
男:146,002人/女:144,821人(うち外国人数30,170人)
●世帯数:181,409世帯
※以上、令和元年5月1日現在
●平均年齢:43.71歳
年少(0歳~14歳)人口数:25,809人(人口比8.9%)
生産年齢(15歳~64歳)人口数:206,295人(人口比70.9%)
老年(65歳以上)人口数:57,469人(人口比19.8%)
※以上、住民基本台帳に基づく(平成31年4月1日現在)

常松さんが豊島区で福祉の仕事に携わったのは、杉並区と静岡県南伊豆町の自治体連携による南伊豆町での特別養護老人ホームの建設が話題に上った2011年頃からだ。現在、埼玉県秩父市においては、豊島区民を入居者に想定したサービス付き高齢者向け住宅「ゆいま〜る花の木」(株式会社コミュニティネットが運営)が建設中であり、今年(2019年)秋のオープンを予定している。
豊島区が東京23区で唯一「消滅可能性都市」と指定されて以降、いかにわがまちの方向性を定め、様々な試みを行ってきたか。そのお話を伺っていると、都市が担うCCRCの役割も見えてくる。

——地方の人口減少に警鐘が鳴らされて久しいですが、ひとり暮らしをする65歳以上の高齢者が2040年に約896万人となり、全都道府県で最多の東京都では約117万人にのぼるといわれています。とりわけ豊島区はかつて「増田リポート」(元総務大臣・増田寛也氏を座長とする「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会が発表した「2040年までに消滅する恐れがある896市町村」のこと)で、東京23区で唯一「消滅可能性都市」とされました。その時は衝撃だったのではないでしょうか。

 まさか、という感じでした。豊島区は当時も今も、人口密度でいうと、約13㎢に28万〜29万人が住んでいるエリアです。すなわち1㎢当たり2万人以上。横の面積は小さくても、ハイタワーマンションなどがあるので、人口は多い。ですから将来的に人口が減っていくというのが想像できませんでした。

——単身世帯が多いのも理由のひとつですか。

 というより、日本創生会議は2040年までの20〜39才の女性の人口比率の変化を重視していたわけで、豊島区の場合は将来その層となるはずの年少人口の割合が小さく、人口ピラミッドをつくると、クリスマスツリーのように裾がきゅっと縮まってしまうのです。ただし、日本創生会議は人口移動を想定していません。われわれは人口移動を想定しないことを想定していなかったので、それも驚きました。

——とはいえ「増田リポート」が問題意識を喚起したのではないでしょうか。

 区民の皆様と一緒に区政全般を再チェックする原動力となりました。2014年に「消滅可能性都市」とされた時、「そうではない」と反発するのではなく、考える機会をもらったという発想に切り替えたのです。そして、産む・産まないの選択は女性にあるので、どうしたら豊島区は比較的若い女性に住みたいと思われ、住み続けてもらえるのかを検討し、若年女性の声を反映させるためのキックオフイベント「としま100人女子会」、その後は「としまF1会議」(F1層=20歳〜34歳の女性)を開催しました。子育てからワーク・ライフ・バランス、都市ブランディング、広報まで幅広い提案を受け、翌年には以下の11の事業を具体化しています。

「子育てナビゲーター」を区役所新庁舎に配置して、妊娠期を含めた子育て期間中の相談に対応し、必要に応じて関係化へ案内・斡旋を行う。

区役所新庁舎に健康推進課・地域保健課の窓口を設置し、母子手帳交付などの利便性を向上させる。

仕事と子育ての両立を目指し、小学校の新1年生が対象の延長保育を、現行の4施設から8施設に倍増。

自然や道具を使い工夫して遊びを作り出せる「プレーパーク」の開設時間・曜日を拡充し、,出張プレーパークも実施する。

住む・育てる・働くができる町のコミュニケーションの場としての理想の公園をめざしワークショップで改善策の実現を目指す。

区内事業所の社長100人が参加して、ワーク・ライフ・バランス実現のため、実態調査やニーズの把握を行い、意識改革などを行う。

子育て中も働きたい女性たちのため、空き家・空き店舗を利用したサポート施設を設置し、女性の暮らしや健康についての出張講座も開催。

女性を対象とした起業塾や交流会を行い、豊島区の女性起業家を育成・輩出する。

豊島区はソメイヨシノ発祥の地であることから、ブランドづくりの提案や、区内外への発信を行っていく。

子育て世代向けの住宅や、子育て支援の拠点として空き家を活用していくため、リノベーションスクールやセミナーを開催し、空き家物件オーナーへの普及・啓発、家守事業を志す人の育成を行う。

「情報弱者のために読みやすく手に取ってもらえる広報紙」となるよう、広報誌のデザインや発行形態を刷新する。

 その過程で豊島区は「消滅可能性都市」から「持続発展都市」への展開に向けた4つの柱を立ち上げました。すなわち、「女性にやさしいまちづくり」「高齢化への対応」「様々な地域との共生」「日本の推進力」です。
 豊島区は戦後から人々が転入してくるまちでした。そして、しばらく生活すると、中には「子どもが生まれたので、もう少し広い家に」などという理由で、豊島区から練馬区、あるいは西武池袋線や東武東上線の郊外に移っていく方々もあったわけです。そうではなく、女性が子どもを産んでも住み続けられる、お年寄りがいつまでも安心して暮らせるまちをめざそうと。
 一方、区に住んでいる方々の多様なニーズが実現できるようにと考えると、豊島区にないところを他の地域で、他の地域にないものを豊島区で体験してもらう。それが「様々な地域との共生」のひとつの考え方です。
 「日本の推進力」については、われわれは文化、特に漫画アニメを中心とした「東アジア文化都市2019豊島」の取り組みを通して、現在、日本の文化を世界に発信することに努めています。日本創生会議が目指すところは、少子高齢化が進む日本が用意するべき処方箋を見つけることです。豊島区はそれについて知恵を絞って考えました。と同時に、豊島区が現在、相互協定を結んでいる約50の自治体も持続発展できるような相互補完モデルを模索しています。
 以上の4つをトータルに実践していかないと、豊島区の「消滅可能性都市」から「持続発展都市」への展開はありえないと思っています。

若年女性の声を反映させるために開かれたキックオフイベント「としま100人女子会」。マイクを握るのは高野豊島区長

——相互協定を結んでいる自治体のひとつが秩父市なのですね。

 最初に結ばせていただいたのが秩父市さんで、秩父市さんからも「豊島区さんと一緒にやりたい」と言ってくださいました。まずは秩父市さんと相互補完モデルを構築していき、それを示しながら、他の自治体さんとも地域特性に応じた都市部と自然豊かな地域との連携を考えてまいります。

——豊島区と秩父市の関係は杉並区と南伊豆町の関係に似ているのでしょうか。

 杉並区が南伊豆町に特別養護老人ホームを建てることを聞いて、いいところは参考にさせてもらおうと考えました。そして、秩父市ならびに千葉県のある自治体との連携を検討したのですが、西武池袋線特急で70分という交通の利便性もあり、まずは秩父市と一緒にやることを決めたのです。

——杉並区と南伊豆町の関係については、杉並区の高齢者を南伊豆町へ送ってしまうというネガティブなイメージももたれました。

 そういう直感的な懸念は当然でしょう。ですから「懸念は無用」と受け止めてもらう仕組みが大切だと思いました。当時、CCRCという考え方が言われ始め、秩父でもその第一弾としてサービス付き高齢者向け住宅プロジェクトがあります。アクティビティの高い方が早くから秩父市に親しみを感じていただける工夫を重ねていきながら、そうした方が高齢期になったときに秩父市のサ高住を選んでいただければよいと思うのです。

——秩父市に移住した豊島区民にも一部行政サービスを提供するという考えがあるのですか。

 高野之夫・豊島区長が2018年9月11日、秩父市の久喜邦康市長とともに記者会見を行い、「区のサービスを受け続けられるようにして移住を決断しやすくする。2地域居住の全国モデルにしたい」との考えを示しました。そして、住民票を秩父市に移した後も、秩父市民としてのサービスに加えて、豊島区で受けていたサービスをできる限り継続して受けられるよう、豊島区と秩父市で調整をしているところです。
 具体的には①「豊島区 高齢者のてびき」の配布、②高齢者総合相談センター(地域包括支援センター)の利用、③一般介護予防事業の利用、④高齢者クラブへの参加、⑤敬老入浴利用カードの発行、 ⑥湯友サロンの利用、 ⑦介護予防サポーター養成講座への参加、⑧「高齢者元気あとおし事業」への参加、⑨認知症サポーター養成講座への参加、⑩認知症カフェへの参加、⑪体育施設利用料減額(ただし、各種サービス等の利用のために豊島区までの移動に要する交通費は自己負担)、などがあります。
 こうしたサービスを引き続き受けられるようにすることで、秩父市を生活の拠点にしながら、豊島区でのご家族・友人や知人との交流も継続しやすくなることを期待しています。

——高齢者の移住を受け入れると「社会保障費の支出が増える」という地元住民に対して、「住所地特例(社会保険制度において住所を移す前の市区町村が引き続き保険者となる特例措置)があるから負担はないのですよ」というような物言いとは違いますね。

 受け入れていただく立場、実際に新たな生活をはじめようという方々、それぞれ一度、不安に思ってしまった方にいくら制度の説明をしても、最初の印象は払拭できません。豊島区のサービスを引き続き受けられるというほうがすっと入っていけるのではないでしょうか。

2018年9月11日、豊島区民対象のサービス付き高齢者向け住宅を秩父市市有地に2019年秋に整備すると発表(左:豊島区・高野之夫区長、右:埼玉県秩父市・久喜邦康市長)

——秩父市の方が豊島区と連携していることで得られるメリットはあるのでしょうか。

 上記の「豊島区のサービス継続」のその先を考える必要があると思っています。先ほどのサービス継続の検討は、「ゆいま〜る花の木」に入居するという前提での行政サービスなので、その効果を見ながら対象を広げるのが順序だろうと思っています。ゆくゆくは秩父市民が豊島区で活躍しやすくなる環境づくりなども考える必要があるでしょう。

——豊島区民の相互扶助の話に移りたいのですが、ある作家が「行き倒れるのであれば、豊島区で」という冗談とも本気ともつかぬことを言ったことがありました。それは豊島区であれば「誰かがあなたに手を差し伸べてくれる」という意味なのだそうです。

 私も、豊島区民の皆様の相互の支え合いがしっかりしていると感じています。個人的なことですが、最初の管理職が危機管理課長でした。その時に最初に教えてもらったのが、防犯パトロールをずっと続けてきた地域の皆さんの責任感や地域への愛情。「自分たちの地域は自分たちで守る」という思いを私も身に着けることができました。
 その後、福祉の担当になりましたが、災害時の高齢者や障害者の皆さんを心配する声、普段の見守りなどに民生委員さん、町会の皆さん、あるいは様々なボランティアの方々が自主的に取り組んでくださっています。その理由は、とのご質問には、なかなかお答えしにくいですが、自助・互助・共助・公助の意識をしっかりもってくださっているのは感じます。町会を中心に地域の底力なのかもしれません。
 子ども食堂は区内に10カ所あるほか、学習支援の取り組みも行われています。生活に余裕のない家庭の子どもたちも勉強しやすいようにということですが、そうでない子どもも集まってきます。
 豊島区の全人口29万人のうち、転出入がここ数年毎年3万人ずつ。単純に計算すると10年ほどで入れ替わってしまう。もちろん、20年以上住み続けている方も多いですが、転入して10年未満の方が45パーセントほど。そのためか「新参者」を受け入れるのが上手なまちだと思います。もちろん「新参者」だけではまちづくりはうまくいきません。むかしからいた人と一緒にやる。都会ならではの協力ができているのではないでしょうか。そしてなにより豊島区の皆様は、やっぱり豊島区が大好きなんですね。利便性や文化事業など魅力を熟知している方々だと思います。

——池袋駅前でも自転車に乗っている人がいます。ビジネスだけでなく、生活の匂いもするまちという印象です。

 そこが、高齢者の相互の見守りもできている理由かもしれません。お祭りでもそう。神輿の担ぎ手が少なくなっていて、それを募集することもあります。よさこいとか、阿波踊り、それらに参加して地域に馴染むということもある。私もある祭りで20年来、参加したいと思いつつ、「それを口に出せなかった」と言ったら、「なぜ言わなかったの? もちろん入りなよ」と言われました。

——今後の豊島区の課題を教えてください。

 住民票を移してしまったら、「はい、さようなら」というまちにならないことです。生活の拠点を都会から移したいと思っている豊島区民は、できれば豊島区と相互協定を結んでいる地域を検討していただきたい。そうすれば引き続きつながりがもてます。たとえば秩父市に移住されても、豊島区のことを忘れないよう、こちらからも情報をご提供し、東京に出てくることがあれば豊島区に宿をとってもらい、むかしの知人・友人と旧交を温められる関係ができればうれしく思います。

——豊島区が「帰ってくる田舎」みたいな存在になったら素敵ですね。「CCRCにおける人の送り出し側としての役割をきちんと果たしたい」とおっしゃった豊島区の職員の方がおられたのですが、その意味がわかりました。本日はどうもありがとうございました。

(聞き手 芳地隆之)