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【プレイバック・インタビュー】もっと、生き生き、わくわく、キラキラを~村木厚子さんに聞く 「かっこいい福祉」とは~
弊誌『生涯活躍のまち』は2018年8月に創刊し、76号まで数えるまでになりました。そこで過去に掲載した記事を適宜、掲載してまいります。今回は、先月「今月のおススメ本」でご紹介した『おどろきの刑事司法 ”犯罪者”の作り方』の著者、村木厚子さんへのインタビュー(第43号・2023年10月発刊)です。福祉に新しい光を当てた内容になっています。
現場が原点
―― 村木さんの数ある著書の中でも、とくに面白く拝読したのは、知的障害のあるアーティストの作品を国内外に発信する「アトリエ インカーブ」代表・今中博之さんとの共著『かっこいい福祉』(左右社)でした。タイトルの“かっこいい”はどうしてつけられたのですか。
今中さんが日頃から考えていることを編集者に提案しました。とてもいい言葉だと思う一方で、反発も買うのではないか。かっこよくなくても、地道にやっていくのが福祉だと考えている方もたくさんいらっしゃると思ったのです。最後は今中さんと「『かっこいい』はある種の問題提起になるだろう」と決めました。
私は今中さんの活動の他にも「かっこいい福祉」に出会っていました。千葉県と埼玉県を中心に事業を展開している社会福祉法人「福祉楽団」です。視察した際の第一印象は「素敵!」。若いスタッフが多く、自分たちが提供しているものを「障害のある人がつくった」と強調することなく、品質の高さに合った価格設定をしていました。
同法人の理事長である飯田大輔さんは「福祉楽団」のブランドとして株式会社「恋する豚研究所」も経営しています。農家さんでの豚の成育、と殺を受けて、同社が精肉作業を行い、レストランを運営するほか、高級食材としてデパートにも卸している。地域の農家の存続や高齢者のしごとづくりも視野に入れた活動です。海外の大学からの視察や日本の大学生の会社訪問も相次いでいます。
今年(2023年)7月末に社会福祉法人「佛子園」を訪問した際、「アトリエ インカーブ」や「福祉楽団」と同じく、「ここにも色がある」と思いました。「何かの思想や傾向」という意味ではありません。福祉の世界が「モノトーン」のイメージで受け取られるなかで、自分たちの色が強く出ていると感じたんです。福祉は相手のウェルフェアを高めるのが目的ではあるけれども、そこで働いている人の喜びや楽しさ、創意工夫が伝わってくるから色が見えるのだろうなと。

―― 村木さんが務めてこられた公務員という仕事は、むしろ色をつけないものですよね。
公務員は無色透明、黒子だと思います。配属先が2~3年で代わります。私が所属していたのは厚生労働省ですが、私は障害や介護、医療のプロではありません。法律や制度をつくる、予算をとってくるスペシャリストとして、当該分野で活動をしている人の力を借り、羅針盤を示してもらいながら政策を進めるのが仕事です。
とはいえ、自分が所属している分野の専門性も求められます。また、Aという分野でやっていたことをBの分野で応用することで、B の分野だけでやってきた人たちの頭をほぐし、新しい発想を持ち込めます。私が大学生の時、先生から「ある人がAの分野を1単位、Bの分野を7単位、Cの分野を2単位、そしてDの分野を1単位やったとする。ここまでのキャリアを積んだ人の仕事の射程距離は、一番多くやった7に4つの分野に取り組んだという4をかけることで測れる」と教わりました。専門性をもっていることは大切で、各々が1ではいくらかけても大きくならないですよね。
プラスアルファで新しい何かをすることで、その専門性がより活きてくる。役所に37年間勤務していて、あの話は本当だったと実感しました。役所の仕事は縦割りですから、ある程度の専門性は必要です。しかし、それに閉じ込もると、足し算でしか成長しない。新しい分野を少しでもやるとそれは掛け算で効いてくる。これまでとまったく違う分野の業務に戸惑っている後輩には、こんな話を伝えています。
――『かっこいい福祉』のあとがきで、福祉に携わる人に向けて「制度にないサービスを生み出す」こと、「そのために必要な分野の専門家とつながる」ことを提唱しておられます。
政策をつくる際の原点となるのは現場です。ある人にこう教えてもらいました。「0を1にするのはNPOの力、理論武装して1を10にするのが学者の力、ペイする範囲内で10を50にするのが企業の力、誰もが利用できるように50を100にするのが行政の力」。これに従えば、まずは0を1にしなければ何も始まらないわけで、現場での実践が出発点になる。
制度はうまくいったものを後付けでオーソライズするものです。現場が生き生き、楽しく、やりがいをもって、時代や人のニーズに合わせた発想を形にしていくことから新しい制度が生まれます。
「つながる」はここ数年の私のキーワードです。ひとつのセクター、ひとつの事業体でできることは限られており、異なる分野との接点のなかに新しいものが生まれると思っています。役所を退職して以降、私が頼まれる仕事は居住支援、農福連携、再犯防止というように、福祉と国土交通省、福祉と農林水産省、福祉と法務省、すべて「福祉×〇〇」なんです。なぜか? それを多くの人が求めているにもかかわらず、異分野と関わるのは大変なので、私のような、いいかげんで(笑)、両方に行ける人間に声がかかるのではないか。そう思うようになりました。
福祉とは命綱です。しかも、障害や介護などたくさんの綱が垂れているのですが、いくら綱があっても、それを太くしても、そのうちの1本にしがみつかなくてはならない。手を離したら落ちてしまいます。そうならないためには各々の綱を結んで網にしなくていけない。ところが福祉は綱をつくるのは上手だけれども、網にするのは苦手。だから課題は「つながる」なんです。
佛子園の視察で最初に訪れた輪島KABULET はまちづくりそのものだと思いました。そこからスタートしているので、制度や地域のリソースなど、道具として使えるものはなんでも使っていく。「つながる」が実践されていると思いました。
勉強は自分のこと、人のために何をするか
――村木さんは幼少時にお母さまを亡くされ、小学校に入るころまで、お父さまと2人で暮らしておられたそうですが、お父さまは「教育パパだった」と語っています。ただ、「勉強は自分のこと。自分のことをやっていても褒められないよ」と言われていたそうですね。
家のお手伝いをすればほめてくれたけれども、勉強は自分のためだからと。就職して、出世したとしても、それは自分のこと。「家庭のことも両立したらほめてあげてもいいのかなあ」とも言っていました。どういう意図があったのかはわかりませんが、そう言われることで、考えや行動が偏らないようにしてくれた気がします。
―― 一方で私立の進学中学校に入ったときには「上位50位以内でなければ公立に転校しなさい」と言われたとか。
勉強については、本人の気持ちが緩んでいるときには厳しく、本人がやる気になったと見たら何も言いませんでした。手のひらの上で転がされている感じでしたね。当時は「女の子は必ずしも大学に行かなくてもいい」という風潮があったなかで、進学させてもらい、自分で考えて行動できるような人間になるよう導いてもらったと思います。
意識づけよりも「私もやりたい」を
――他のご著書で「社会を変えるためには人々の意識を変えていかなくてはならない」というアプローチに疑問を呈されておられました。制度で押すことが大切なんだと。
人の意識ってそう簡単に変わらないと思うんです。女性活躍というと、まずは当事者の意識づけからということで、管理職向けの研修をしたりしますよね。それに効果があるのだろうかと思っていたところ、手に取った行動経済学についての論文に「無意識の差別があるなかで、意識化されているものへの教育だけやっても、あまり意味がない」と書かれていました。意識教育を熱心に行うと、教えられる方は「ああしなきゃ、こうしなきゃ」と頭でっかちになってしまう。そうではなく、やらなくてはならないのは実践なのだと。
米国でも「女性は数学が苦手で、語学が得意」という偏見があるそうです。ところが、ある学校にとても優秀な
女性の数学教師がいると、女子学生の数学の成績が上がる。逆にとても優秀な男性の国語教師がいると、男子学生の国語の成績が上がる。教室にヒラリー・クリントンの写真を飾っておくと、女子学生のスピーチが長くなるという――これは本当かどうかわかりませんが(笑)、「女性は優秀ですよ」と繰り返すよりも、女性の首相が生まれる、女性の宇宙飛行士がいる、といったデモンストレーション効果の方がはるかに大きいというのです。だから「企業の管理職の3割を女性にする」といった数値目標の設定をしてでも実態をつくってしまうことが大切なのだと思います。
――現在、教鞭をとられている津田塾大学でもその点を意識されているのでしょうか。
私の授業ではゲスト講師をたくさんお呼びします。ジェンダーバランスについて教えるにしても、実際に活躍している方を見てもらうのが大事だと思うからです。最初の4年間くらいは「女性のキャリア開発」という授業をしていました。ビジネス界で活躍している女性の話や政策面での話など、いろいろなテーマを取り上げ、最後に学生へアンケートをとったところ、「どの授業が一番役に立ったか?」の質問に対して、もっとも多かったのは、30代の社会人3人(2人は会社員、1人は公務員)が「どうして今の仕事を選んだのか」「子どもを持ったか、持たなかったか、それはどうしてか」
「なぜ転職をしたのか、しなかったのか」「何に悩んでいるのか」などを語り、学生からの質問に答える授業だった
んです。理念は大切だけれども、現実問題として自分でもやれる、楽しそうだと思わせる等身大のインパクトが大きかったのでしょう。
障害福祉もそうですよね。障害のある人との出会いから、その世界へ導かれていくこともある。女性活躍について娘と話をしたことがありました。彼女に「働くお母さんの子どもって大変だった?」と聞いたら、「ママは楽しそうに仕事をしていたから、社会に出る、仕事をすることへのマイナスイメージはなかった。それが一番よかった」と。

仕事が人を成長させる
――人見知りで、引っ込み思案なところもあった村木さんは、人と一緒に仕事をすることで、いつの間にか部下から「交渉上手ですね」と言われ、ご自分でも驚かれたそうですね。
ジョンソン・エンド・ジョンソン代表取締役社長、カルビー代表取締役会長兼CEO などを務められた松本晃さんが、いまの若い世代が仕事に求めているものを3つ挙げていました。ひとつめは「自分のやっている仕事が社会の役に立つかどうか」、二つめは「自分がわくわくするかどうか」、三つめは「仕事を通じて成長できるかどうか」。
私はかねてから企業の経営者に「女性活躍を実現するためには『競争』というニンジンは効きません」と言っていたので、それを聞いてうれしくなりました。とくに長く仕事を続けていくためには、辛いことがあっても、それを乗り越えることで自分が成長できると思えるのが大切だからです。
――国家公務員、とくにキャリア官僚は出世競争が厳しいと見られているけれども、仕事のほとんどはチームプレーによるものだとご著書に書かれておられます。
私が国家公務員になった時代は女性自体が少なく、東京大学卒でもない私には、出世レースに参加しているという意識はあまりありませんでした。それを意識する人は「(トップは)おれなのか、あいつなのか」ということもあるのでしょう。しかしながら、多くの仕事は組織の名前の下、チームとして動き、最後は政治を説得するというコンセンサスづくりです。自分の個性を出して、他社と差別化をして競争に勝てる商品を完成させるという民間企業の感覚とは違うのではないでしょうか。
とりえずやってみる
――日本の組織を表するのにコンピューターゲームのバグを例にされています。日本の製品は品質がとても高く、バグが少ない。一方、米国ではコンピューターゲームにバグがあるのは当たり前。買った人がみんなで遊ぶことで改善され、バグがなくなっていく。日本人は完成形を極めるのは得意だけれども、みんなの力を借りて改善していくのは苦手なんじゃないかと。
日本の企業にはなぜスピードが足りないのかについての例として話したことがあります。失敗を恐れてしまうんですね。しかし、瞬時に情報が駆け巡るいまの時代には、とりあえずやってみて、ダメだったら修正すればいいと考える企業の方が伸びると思います。
――村木さんは杭の話もされています。池のなかに一本の杭しかないと、立っていても不安定、2本あれば安定する
けれども動けない。3本あってようやく動けると。これは働き方について、と同時に地域づくりの例でもあるのでしょうか。
週休2日制が普及しておらず、法定労働時間が48時間だった当時、企業に週休2日、法定労働時間40時間の導入を勧めていた30代のころから言っていることです。私が子どもをもった時と重なっており、仕事だけに足を乗せているのはとても危ない。仕事と家庭の両方に足を乗せていくべきだ。そこからさらにもう1~2本増えれば、逃げ場ができると思っていました。3本の杭は行政、企業、NPOにも例えることができます。2者の関係だと、一方が引っ込むと、他方が多くを引き受けなければならない。その力関係で物事が決まってしまうわけで、それを3者にすれば、一方に偏った負担を分けることもできるでしょう。それが4者になり、5者になり、コーディネーターも入れば、安定度はよ
り高まりますし、できることも増えていきます。
自分に課されているものは何か
――村木さんは困難を抱える若い女性を支える「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人になっておられます。きっかけは、後に無罪が確定する郵便不正冤罪事件で拘置所に入っていた時。薬物や売春で服役している若い女性が多いのを目にし、その原因が暴力による被害だと知ったことだと。拘置所内では周囲をよく観察し、熱心にメモをとられていたそうですね。その姿勢は『夜と霧』の作者であるヴィクトール・フランクルを想起させます。彼が「人生に自分が問われている。だから自分がその答えを出さなければいけない」とナチスの強制収容所のなかの様子を克明に記録していた心情にも通じるのではないかと思いました。
拘置所にいるとき『夜と霧』を差し入れてもらいました。あの場で刑務官の労働環境や女性受刑者について考えたり、検事にはいい人もいれば、悪い人もいることを知ったり、「ああ、まさにこの本のとおりだな」と思いました。ただ、見ようと思って見たのではなく、自ずと見えてきたという感じです。私は「記録魔」なので、日記をつけていました。日々に流されてしまわないよう、「今日は何を見て、どう思ったのか」と振り返っていたのだと思います。
――これまでのご自身の職業人生を振り返られると、「私は〇〇をやる」というよりも、「私には〇〇が求められている」。それに取り組むという感が強いのでしょうか。
私は自分のことを「水」だと思っています。個体でも気体でもなく、液体。しかも無色透明で器によって形も変わる。人に話したことはないのですが、アトリエインカーブの今中さんから「村木さんは水のようだ」と言われて、よく見ているなと感心しました。水として流されているから、事件の時もあまり無理がなかった。ただ、周りを見ながら流れる。「自分はこうありたい」「こうあらねば」という思いが強い人が私のような状況に置かれたら辛いでしょうね。
楽しいことを提供するのが本物の支援
――若草プロジェクトはどのような活動をしているのですか。
「女子少年院に収容されるのも相当なこと」と聞かされたことがあったので、拘置所で服役するのはかなりの重罪だと思っていたのですが、みなさん、まだあどけなくて。「こうなるまでに何とかならなかったのか」と考えざるをえませんでした。一般社団法人若草プロジェクトを立ち上げたときは、代表理事を務める弁護士の大谷恭子さんとともに、10代女性を支える活動をしている一般社団法人colabo 代表の仁藤夢乃さん、生きづらさを抱える女の子のための女性による支援を行うNPO法人BONDプロジェクト代表の橘ジュンさんら、制度のないなかで活動している彼女らの「講義」を受けました。
その際に「自分は役人なんだな」と思ったのは、全国にはこうした団体がいっぱいあって、どこも苦労している。ならば、みんなに役に立つことはできないかという考えが浮かんだ時です。そして少女や若い女性たちを支援している団体が求めるサポートと、企業・団体が提供できるサポートをマッチングするためのデジタルプラットフォーム「TsunAが~る」を立ち上げました。目の前の女の子を直接支援する部隊と、全国で活動をしている応援団の応援をする部隊の二頭立てで運営しています。
最初に依頼したのは「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングでした。着の身着のままで避難してきた女性が、洋服をお仕着せではなく、自分で選べるようにと伝えたら、全国のシェルター(婦人保護施設、自立援助ホーム、子どもシェルターなど)にワンパッケージで送ってくれたのです。それを機に同社と若草プロジェクトが連携協定を結び、定期的に施設へ衣料を送ってもらうことになりました。
ファーストリテイリングの展開するブランドである「セオリー」で、女性たちがプロにお洋服を選んでもらい、メイクをして写真を撮るイベントも開催し、とても大きな反響がありました。当初、私は「ファッションよりも生活必需品が先だろう」と思っていたのですが、こういうイベントがあることで彼女たちは職員と一緒に外に出ることができる。お店で働くプロの職業人と接し、社会人にはどういうスキルが必要なのかを知ることができる。自分の人生をこれからどうするかという自立を考えるための支援であれば、提供するものは質がよく、夢のあるものでなければならない。
「困っている人にまずは必要最小限のものでいい」という発想ではだめなんだということを教えられました。
日本では、福祉は税金を使うこともあって「必要最小限に」となりがちなので、企業など民間事業者や地域の方々の力も活かし、将来に向けての踏み台になるような支援をしたい。現在はモノが中心ですが、これからは体験などコトを増やしてきたいと思っています。
――「日本の行政の福祉はJKビジネスのスカウトのお兄さんに負けている」とcolabo代表の仁藤さんに言われたそうですね。
アダルトビデオなどの性産業に取り込まれた人などへの相談支援事業を行っているNPO法人ぱっぷす代表の金尻カズナさんには「日本の福祉はキラキラしてないから、キラキラしたところに負けるんだ」と言われました。こんなふうに生きたい、こんなことをしたいと思う若者には、ときめきやわくわくが必要です。楽しいことを提供しなければ、本物の支援になりません。これも「かっこいい福祉」ですね。(聞き手 芳地隆之)

むらき あつこ● 1955年高知県生まれ。高知大学卒業後、労働省(現・厚生労働省)入省。女性政策や障害者政策などを担当。2009年、郵政不正事件で逮捕。2010年、無罪が確定し、復職。2013年、厚生労働事務次官。2015年、退官。困難を抱える若い女性を支える「若草プロジェクト」代表呼びかけ人。累犯障害者を支援する「共生社会を創る愛の基金」顧問。津田塾大学客員教授、住友化学社外取締役などを務める。2023年、全国社会福祉協議会会長に就任。著書に『日本型組織の病を考える』(角川新書)、『あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ』(日経ビジネス人文庫)、『公務員という仕事』(ちくまプリマ―新書)など多数。
