この人通り、信じられない

 2023年から石川県小松駅前広場で始まった「駅ビアこまつ」。今年の「駅ビアこまつ2026」は9月13日(日)、会場を小松駅から歩いて数分の「小松中央通り商店街」(以下、中央通り商店街)に移して開催されました。北陸のブルワリー9社が出店し、提供されたクラフトビールは約50種、ドリンク・フードブースは20店に上りました。テーマは「昭和100年!」。キャッチフレーズは「人とまちがつながるアーケード」です。

駆けつけてくださった来賓の方々と一緒に乾杯!

 当日は、駅ビアこまつ2026実行委員会事務局を務める社会福祉法人佛子園の雄谷良成理事長が掲げた「目標は来場者1万人。商店街を人でパンクさせよう」を上回る、1万人を超えるお客さんが集まり、大盛況となりました。
「この商店街に、こんなに人が集まるなんて信じられません」
 中央通り商店街に衣料品店「オオハシ」を構える店主の女性は、驚きの表情を隠しませんでした。


「かつては賑やかでしたが、いつもはほとんど人が通らないんですよ。ただ、私はここから歩いて数分の自宅から毎日通って店を開けて、閉店時間になったら店を閉めるというのが生活のリズムになっています」
 商店街が賑やかだった昭和を思わせる演出も、懐かしさを感じさせたのかもしれません。店を継ぐ人はいないという店主さんは、こう続けます。
「また明日になったら、これまでの商店街に戻ってしまうのかもしれません。でも、毎年こういうお祭りがあると思えるだけでも、とてもうれしいですね」


 後継者不在は多くの商店街が抱える課題ですが、駅ビアこまつ2026実行委員会事務局委員長の掛田英治さんによれば、中央通り商店街では今年に入って、新たに3つの店が開店したそうです。すべて飲食店。
 小松商店会連盟会長、小松中央通り商店街振興組合理事長も務める掛田さんは、経済産業省・中小企業庁による、まちづくりの基礎知識から先駆的な事例まで幅広く学び、地域で実践する力を身につける人材育成事業「マチスタート」の受講者50人のひとりにも選ばれています。そんな掛田さんは、商店街について「夜化している」といいます。
「商店街でモノが売れなくなるのと反比例して、飲食店、すなわち夜営業する店が増えてきました。ただ、商店街においては『夜の店』はあまりいいイメージがありません。国や地方自治体が出す新規出店に伴う補助金も、昼営業を条件とするケースが多いのです」

駅ビアこまつ2026実行委員会事務局委員長の掛田英治さん。商店街では「串揚げ いやさか」を経営。シャリキン(焼酎を凍らせてシャーベット状にした飲み物)が絶品です

女性が1人で飲みに行けるまち

 では、夜営業をまちづくりの文脈から見るとどうなるのでしょうか。掛田さんは「ナイトタイムエコノミー」という言葉を挙げ、こう説明します。
「ナイトタイムエコノミーとは、日没から翌朝まで、一般には18時から翌朝6時までに行われる夜間の経済活動の総称です。この考え方の発祥の地はイギリス。狭義でいえば夜の飲食店ですが、広義では、タクシーなどの交通、夜間のトラック輸送などの物流、ガス・水道・電気などの夜間の業務や、病院の夜間診療なども含まれます。観光もそのひとつですが、諸外国に比べると日本の都市は終電も早く、地方都市では夜早く閉める飲食店も多い。とくにインバウンドの観光客からは、夜に消費する場所がないという不満もありました」

地元・小松市にお住いのブラジルの方々

 まちづくりにおいても、夜営業の店にスポットを当てるべきだと掛田さんはいいます。小松市はスナックの新規開店にも助成金を出す数少ない自治体とのこと。
「スナックだと社員がたくさん集まる宴会と違って、上司と部下の二人連れで来ることも多い。そこで上司が部下を説教し始めると、百戦錬磨のママが『あなたは黙って(部下の)〇〇さんの意見を聞きなさい』と諭したりする。格好のチームビルディングの場にもなるんです(笑)」
 この日、会場で声をかけた女性は東京出身ですが、小松市に暮らして20 年になるそうです。このまちのよさのひとつに「女性が1 人で飲みに行けるところ」を挙げていました。
「もともと商人のまちで、古くから北前船の寄港地・宿場町としての歴史がある。コマツ(小松製作所)や航空自衛隊小松基地もあるので、常に外部から新しい人が入っている。だから、よそ者にもオープンなところがあるのではないでしょうか。それが居心地のよさかもしれません。大衆文化である歌舞伎が栄えたのも、住民気質と関係があると思います」
「駅ビアこまつ」には今年初めて来たそうで、「こんなにいろいろなビールを楽しめるのはうれしい」とも話してくれました。

毎年、会場を大いに盛り上げてくださるお2人。今年もありがとうございます。

私たちの商店街

 さて、今年のキャッチフレーズ「人とまちがつながるアーケード」に、掛田さんはどのような思いを込めているのでしょうか。そうお聞きすると、
「アーケードは公共インフラです」という言葉が返ってきました。
その理由は、「アーケードは道路でもあり、雨の日の通学路であり、雪が積もらない通りでもある。地域の資源といえるから」とのこと。
「しかし、小松中央通り商店街にアーケードが設置されたのは1975(昭和50)年。すでに50 年が経過しており、老朽化の問題があります」
 2026 年6 月26 日付の『中日北陸新聞』は、老朽化が進む小松駅前の商店街のアーケードをめぐり、小松市が費用の一部を負担して撤去する方向で検討していると報じています。早ければ2027 年度から、アーケード撤去とその下にある市道の整備設計を始めたい考えだといいます。
「中小企業庁によれば、『アーケードが老朽化して危ないから』という理由の消極的撤去と、『アーケードを撤去してこういうことがしたい』という理由の積極的撤去があります。金沢市の横安江町商店街のアーケードが撤去されたのは2006 年4 月。老朽化にともなう多額の維持費(修繕費)の負担が困難になったという消極的撤去でした。いまでは『金澤表参道』と名前を変えて、人で賑わっています。一方で、アーケードがあることによって、商店街には『自分たちのエリア』という意識も生まれるのです」
 アーケードは、単に雨や雪を防ぐ屋根ではありません。歩行者のための空間をつくり、車道や屋外の自然環境とを緩やかに分ける役割もあります。
 この日は何度か土砂降りに見舞われましたが、来場者はほとんど濡れることなく、ビールと食事を楽しんでいました。まさにアーケードが、地域の人たちのための「公共インフラ」として機能していたのです。

今年も北陸3県の住みます芸人の皆さんも出演。ハムカツとかき氷を販売する青年海外協力協会のブースを紹介。

原点回帰

 共催団体のひとつである(株)こまつ賑わいセンターならびにJR 西日本不動産開発(株)の後藤孝さんは、「駅ビアこまつ2026」を「原点回帰」と表現していました。
「このフェスは、毎年駅前広場でイ開催するイベントということではなく、駅前エリアを元気にしようという目的をもっています。その意味では、本来のあり方により近くなったのではないでしょうか」
 原点回帰といえば、もうひとつ。共催団体である社会福祉法人佛子園のスタッフが、大いに楽しんでいることです。
「どうやったら人を集められるか」という開催側の視点だけでなく、「どんなことをやったら楽しいか」という来場者の視点ももって企画していったことが伺えます。

フラメンコクラブ・ルナーレスの皆さんも会場もダンス・ダンス・ダンス

 おなじみの「GEN& スマイリーズ」「vanvan-small-bigband 」「KANAZAWA Swing Jazz Collective」の皆さんによるごきげんな演奏に加え、「ガマの油売り」「ちんどん屋」「ルークと娘の大道芸」といった面々の技の競演。フラメンコクラブ・ルナーレスの情熱的な踊り、専門学校アリス学園加賀校のミャンマー、インドネシアの学生さんたちのダンスメドレー、La La Queens の昭和歌謡ポップライブ、さらには日本最大級の怪談バトル「T1グランプリ」の2025年優勝者、壱夜さんの怪談部屋まで。
「こんなのがあったら楽しい」という開催側の思いが、会場全体から伝わってきました。

後半では山野之義・石川県知事(右)も訪れました(左は雄谷良成佛子園理事長)。

「ぼくはお酒、飲めないんです」という男性もいました。
「何を食べて、どのステージを見るか、何度も行ったり来たりしています」。そう言いながら、600m に及ぶ中央通り商店街を楽しそうに歩いていました。

下戸でも楽しい駅ビアこまつ