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【プレイバック・インタビュー】医療法人参天会・新田博之理事長~人との関りのなかで価値を見つけていく介護の明るい未来~
鹿児島市喜入地区を拠点に、医療・福祉の事業を通して地域の健康づくりに取り組んでいる参天会・喜入会共同企業体。代表の新田博之さんは、2010年に医療法人、社会福祉法人の運営に関わることになりました。民間企業の経営者でもある新田さんは、当初は戸惑うことも多かったそうですが、医療・福祉の分野で得た新たな発見を事業化することで、従来の介護業界のマイナスイメージをポジティブなものへと変えようとしてきました。本インタビューは、第18号(2021年9月)に掲載したものです。「生涯活躍のまち」が歩んできたこれまでを振り返りながら、これからの展望について語っていただいています。介護の仕事とは何か。その意味を、社会、技術、キャリアなどさまざまな角度から語った新田さんの言葉は、いま読んでも色あせていません。そこで今回、あらためて掲載することにしました。
競争よりも共感性
――参天会・喜入会共同企業体は第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の初期から鹿児島市・生涯活躍のまちの事業主体として活動されてきました。
多くの地域は、将来消滅する恐れがあるといわれます。現状でみると、日本の総人口は2053年には1億人を下回り、高齢者人口は2042年まで増え、その後ピークアウトします。高齢化率はさらに上昇し、2053年には4割近くになります。経済活動に直結する生産労働人口(15歳から64歳の人口)は減り続け、2065年には人口の半分ほどになり、人口問題で大切な20歳から39歳の若年女性は2040年には半分の市町村で半分以下になります。若年女性の流出が著しい地域は、たとえ出生率が上昇しても将来的には消滅する可能性が高いとされているのです。
高度経済成長以降の東京一極集中に、地方は人材を輩出し続けてきました。地方には大家族が多く、たくさんの人が暮らしていたからで、人口減少が進む現状で地方から働き手が流失し続けると、地方には高齢化と過疎だけが残り行き詰まります。私たちの拠点がある鹿児島市喜入地区の人口は、2010年に約1万3,000人だったのが、現在は約1万人。2040年には8,500人くらいまで減少するといわれています。人口が減少し続ける地域の姿と、識者の地方消滅論に私たちはかねてから危機感を抱いていました。生涯活躍のまちに取組み始めたのは、都市と地方の関係を改善しようと考えたからです。
――具体的にはどういうことでしょうか。
公益社団法人三州倶楽部(注1)の会員560名を対象にUターンに関するアンケート調査を行ったところ、303人からの回答がありました。その結果を分析してわかったのは、東京圏に住んでいる方のうち、「中高年になったら故郷へ帰りたい」と思っておられる割合が高いこと。キャリアを積んだ方が鹿児島に戻ってくだされば、地域の発展につながります。鹿児島市に支店のある企業にお勤めの方で、親御さんの介護に困られた場合、転勤が可能であれば、親御さんと一緒に鹿児島市に移住いただくという選択肢もある。
それにより介護離職をしないで済むかもしれません。鹿児島市は医療や福祉が充実しているので、親御さんのケアを施設に任せて仕事に行ける環境があります。住所地特例(注2)があるので鹿児島市の負担も避けられます。
充実した鹿児島市の医療と介護は産業として魅力があるのです。特別養護老人ホームや介護老人保健施設を運営するのであれば、1坪当たり何百万円もする地価のところよりも、同10万~30万円、あるいはそれ以下のところのほうが明らかにパフォーマンスはよいですから。
(注1)三州(薩摩、大隅、日向=現在の鹿児島県、宮崎県)の歴史・文化・伝統の調査研究や三州の人材育成のための各種支援事業等を行っている。(注2)被保険者が他の市町村の施設に入所等のため施設所在地に住所を変更した場合、施設所在地の市町村ではなく、施設に入所等をする前の住所地市町村の被保険者とする措置。
――新田さんは民間企業の経営者でもあるので、医療法人、社会福祉法人の運営に携わることになった当初は戸惑うことも多かったのでは。
平成10年からある程度携わっていましたが、両親が運営するこの事業を承継するために、故郷に戻ってきたのは11年前でした。医療・福祉の業界のことは何も知らず、福祉施設のご利用者にも会ったこともなく、どのように話しかけていいかもわかりません。当初は運営効率の悪さばかりが目につきました。200名以上のスタッフ(現在は約450名)はみんな穏やかで笑顔を絶やさないものの、動きはゆったりしているし、「これで経営が成り立つのかな」と。
――その思いがどうして変わったのでしょうか。
認知症高齢者の支援は、競争心よりも共感性が高い人のほうが向いていることがわかったからです。医療や福祉は国の社会保障制度を利用する準市場です。民間企業のような競争を中心として発展する業界ではありません。たとえば、AからBへの支援をスムーズに進める人と、時間がかかってしまう人がいるとします。企業では前者の方が評価されますが、ご利用者にとっては、時間がかかってもゆっくりやってくれる人のほうが好まれる場合が多い。もちろん手際よく支援していても好まれる場合もあります。大切なことは、支援に取組む気持ちで、それには適性があることに気づきました。

地価の高い都会では、スピードを重視した高い生産性で多くの方が働いています。いわば自らの能力を競争で高める働き方、刺激をバネにしていますね。それに対してローカルに留まっている人は、あまり競争を好まないタイプが多く、人と人との関係は近く深い感じがします。なかでも医療や福祉の分野では、人に優しく相手の気持ちを雰囲気から感じとれる、共感性の高い人が多い傾向があります。
認知症ケアではパラランゲージが求められます。人は年齢を重ねると短期記憶が衰えていきます。いまさっきのことは忘れても、懐かしいことは覚えていたりする。スタッフから「あのときはこうでしたね」といった言葉をかけられると、ご利用者はその時のことを思い出し落ち着いてくるんですね。これを強化子として活かしたのが回想療法です。
当法人は、絵を用いた回想療法、AI を用いた音楽療法、表情をAI 解析した心理療法など、認知症ケアに効果がある多くの支援法を導入しています。認知症の悪化につながる昼夜逆転生活は、強い光を用いる高照度光療法で生活リズムを整え、生活の質を顔表情からAI解析する評価指標、バイタルをAI解析する健康管理、見守りをAI 化するシステムなどの最新機器も備えています。また、システム開発部があり、メーカーとの共同研究も盛んで、プロトモデルも実装しているほか、認知症ケアの研修や資格取得など、たくさんの研修がHPからオンデマンドで受講できる仕組みが整っています。
当法人の事業は「人に始まり人に終わる」。人との関係に基づくものであるがゆえに、人材育成に最も力をいれているのです。面白いことに、私たちの施設には、そうした方法を勉強していなくてもパラランゲージを上手に使うスタッフがいるんですよ。普段の支援がそのまま心理療法になっている。そのようなスタッフは共感性が高く、普段の生活や人との関わりから自然に学んでいるのでしょう。介護に求められる支援が高度化していくなかで、私たちは介護に携わるスタッフを、生活を支える専門職として生活支援員と呼んでいます。
話を生涯活躍のまちに戻せば、当初の「日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)」は首都圏に住む中高年齢者の地方移住にフォーカスしていました。ところが当法人に都市圏から転職してくるのは若い世代です。(鹿児島市の)瀬々串町にあるデイサービスでは、神奈川から奥さんと子どもと一緒に移住してきた方が管理者として働いています。
奥さんが鹿児島市出身という、いわゆる嫁ターン。彼は某大手上場企業の主任として勤めていたのですが、「あまりに残業が多く、ワーク・ファミリー・バランスがとれなかった。もう少し家族との時間がもてる働き方がしたかった」といわれます。同じような理由から名古屋にある大手自動車関連メーカーを辞めて、当法人に就職したスタッフもいます。彼らの所得は前職に比べると下がります。でも物価などを勘案すると可処分所得は上がる。残業はほぼないので生活の質もよくなるんです。
地元の大学を卒業する学生のうち、県外の企業に就職する人は約6割、地元の企業で働く人は約4割です。若者が故郷を離れて就職や進学するという流れを止めることはできません。バリバリ稼ぎたい人は都市部で働けばいいし、ゆっくり家族と過ごす時間をもちたい人はローカルで働けばいい。自己の能力向上を目指して高い生産性の仕事に従事しているものの、「こういう働き方は合わないな」と感じた方は、地元に受け皿さえあれば帰ってこられる。多様な働き方の準備が必要だと思います。
都市部の生活と鹿児島のそれとの違いを経験することは大事です。私たちは「こういう生き方もありますよ」という新しい価値観を提案していきたい。その意味では第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が掲げる全世代型のほうが私たちの活動にはマッチしています。

――離れることで故郷のよさを認識するということですね。
私がJR喜入駅で降りると、まったく知らない子どもたちが「おはようございます」「こんにちは」と挨拶してくれるんです。こちらも挨拶を返します。またここでは横断歩道を通る子どもが手を上げて渡り、運転手にぺこりと頭を下げます。地元にずっと住んでいる方には当たり前ですが、地元を離れると、「故郷での温かい人との関わりがあった」ことがわかります。
多様な人材が集まる
――福祉の業界は人材の確保が難しいといわれていますが、現状はいかがですか。
ここに来る前までは経営者として応募してくる人を選ぶ立場でした。したがって人が来ないという経験をしたことがなくて(笑)。応募者が集まらず頭を抱えたこともありましたが、現在、新卒者を毎年30名ほど採用しています。離職率が低いこともあり、人材不足はありません。「私たちの仕事は共感性をもっている方が適している」という考えから、福祉を学んだ人に限定せずに採用していることもあります。
日本総合福祉アカデミーと業務提携して鹿児島喜入校と坂之上校を開校し、介護福祉士実務者研修を行っています。現在は年3回実施し、本年度の受講生は50名を超えます。採用されたスタッフはそこで学び資格取得する。また、すべてのスタッフを対象に、毎週、福祉系大学教授による援助技術を習得する講義や外部講師による認知症ケア研修などを行っています。
専門的な学びにつながる複数の研修や社内外の資格制度を整えるなど、良質な職場をつくるため、人材育成への投資は惜しみません。当法人に応募する人の多くは、介護業界で働きたいというよりも、私たちの掲げる理念や運営方針に共感し、ほかの一般企業と比較して選んでいるのです。
――だからスタッフのバックボーンも様々なのですね。
医療や福祉の分野はすそ野が広いので、多様な分野の人材を必要とします。そのため生活支援(介護)という仕事が専門性を求められるにもかかわらず、生活という広範な仕事を担っているから雑務が多い傾向がある。ご利用者と深くかかわることが生活支援員の本来業務という考えから、私たちは個々の業務について、「これは専門性がどの程度必要なのか」を洗い出し、重要性が低いものは切り離してアウトソーシングしています。
たとえば、シーツ交換や洗濯物配りなどの業務は、鹿児島市内の外国籍の方が起業した会社に発注しています。私たちにとっては生活支援の仕事から専門性の低いものが少なくなる。起業した会社は仕事が増える。Win-Winの関係です。また、排泄処理はパラマウントベッドさんとの長年の研究成果もあり、排泄パターンをAI 解析するシステムを導入し、適切な排泄支援を経験に頼らずに行えるようにしました。
私たちの施設を視察される方からは「みなさんゆっくりしていますね、人がたくさんいますね」と言われることがあるのですが、「ゆっくりしているように」また「人が多いように」見えるのは、業務をスリム化したからなのです。

――介護業界はきついというイメージが変わっていきますね。
生活支援(介護)はある意味でボランティアとつながっています。それを快くしてもらうには、義務ではなく、やり甲斐のある双方向の関係性が大切です。ボランティア精神に富む人は、生活支援の仕事を面白くするのがうまい。ご利用者と生活支援員のどちらも幸せを感じるような関係をつくるのです。こうした方が専門職として取組む介護業界に明るい未来を感じます。今後は、コロナ禍の影響もあり、介護業界の人材不足は解消していくのではないでしょうか。魅力的な職場が、ローカルにおいてでてくる可能性が高いと思います。
――とはいえ仕事を継続するのは大変ではないですか。
生活支援(介護)の仕事は劇的な変化がない仕事なので、ちょっとした違いをいかに楽しめるかが大切になります。技術系の仕事であったら、ミクロ単位を調整し、「5ミクロンの精度がでた」とか、新しいセンサを用いて、「課題であった動きを改善した」という話になりますよね。生活支援員がそういう面白さを感じることができるかどうか。昨日と今日の差は小さいけれど、同じではありません。小さな変化に意味を見出し積み重ねることで確かな価値となります。
――地域とのかかわり方はいかがですか。
地域づくりについて、私たちが先頭を切って走り続けるのは難しいことがわかりました。むしろフォロワーとして、地域がやりたいことをバックアップする方がいい。たとえば「こことここを連携して、私たちはここを担います」とか、「こことここをマッチングすると、こんなことが期待できます」といった具合です。地域の活動を人的、金銭的に支える方が地域の魅力につながると思います。
コロナ禍で一時休止していますが、地元の高齢者に介護予防トレーニングを無料で参加いただいています。それで皆さんが元気になると、自信がついてもっとやりたいとなって、より健康になる。ケアマネジャーや理学療法士などの専門職が地域に入り、高齢者の身体の変調をみつけることで、健康維持につなげる活動や介護に関する鹿児島市の補助申請、介護サービスを利用する場合の申請書類のサポートなども行っています。
現在、J3に所属しているサッカーチーム鹿児島ユナイテッドFCのトップチームやU-18(18歳以下)の練習拠点が喜入にまもなく完成します。スポーツ科学の進歩は早く、U-18の選手のケガを防ぐために睡眠状態や筋肉量の測定を通して、睡眠指導などのサポートを行っています。スポーツ科学の活動は地域の中高年齢者にも広げることができるでしょう。
官民連携の一層の強化を
――今度の展開としてはどのようなことを考えておられるのですか。
今年の10月には鹿児島市坂之上という地域にサテライトオフィスならびに介護相談センターを開設する予定です。2年後には鹿児島市の中心部に施設をつくり、活動エリアを喜入地区から鹿児島市全域に広げる計画です。
私たちの施設計画は、地域と一緒に活動できることを前提とし、地域の方々が集まれる場所を併設します。ポストコロナにおいては、健康づくりがより重視され、効果の期待される介護予防が求められると考えています。
私は喜入に帰ってきてから医療や福祉のことを基礎から学び、人口問題、都市と地方の関係に危機感を抱きました。大学院の修士論文では、地域包括ケアシステムと日本版CCRC構想を一体的に機能させることが東京圏の高齢化危機への対応と地方創生の解決手段になりうることを導き出し、関係人口の重要性を裏づけました。その後、「鹿児島市生涯活躍のまち形成事業」の指定を受け、都市部からの移住事業を手がけるなかで、心身とも健康でアクティブに活動される高齢者の健康維持につながる取組みの重大さに触れ、中高年齢者における在宅生活の延伸に寄与する介護予防プログラムを調査研究しました。博士論文では、有酸素トレーニングと吸気筋トレーニングが全身の身体活動量を増加させ、日中の自覚的眠気の改善と転倒予防につながることを示しました。ポストコロナにおいては、身体能力の改善度予測プログラムを活かして、中高年齢者向けの介護予防トレーニングと認知症高齢者向けのトレーニングをひとつの空間で行うことを検討しています。2.6人に1人は認知症になるといわれているなか、大都市では認知症の方とそうでない方は違う空間で暮らす場合が多いかもしれませんが、ローカルでは共生して暮らすことを強みにしたいと考えています。

――事業者として行政に求めることがあればお聞かせください。
「生涯活躍のまち」を国の方針としてきちんと位置づけてほしいと思います。私たちが「生涯活躍のまち」の理念を語っても、他の事業者にとっては雲をつかむような話で、「それをやることで、参天会さんや喜入会さんに何のメリットがあるのですか?」と聞かれることがあります。まったくないんですよ、苦労は多いのですが(笑)。
ただ、冒頭でお話したように、人口減少がこれからも進む日本では、「生涯活躍のまち」は不可欠で、私たちは国や自治体とともに取組んでいきたいと考えます。一法人が単体で活動するのと、鹿児島市とタイアップして活動するのとでは、意味合いが全く違います。官民連携で活動していることを広く周知いただければと思います。(聞き手 芳地隆之)

新田 博之 さん
SHINDEN Hiroyuki
博士(社会福祉学)、社会福祉士
医療法人参天会 理事長/社会福祉法人喜入会 理事/参天会・喜入会共同企業体 代表
【最終学歴】鹿児島国際大学大学院福祉社会学研究科 社会福祉学専攻博士課程修了【専門領域】高齢者福祉、地域福祉、社会保障【所属学会】日本社会福祉学会、日本保健福祉学会、東洋大学社会福祉学会九州部会【最近の主要著書・論文】「有酸素運動が与える睡眠時呼吸障害への影響」(九州社会福祉学年報第8号に所収/2020年)「介護予防としての有酸素運動とIMTの効果と影響に関する検証」(南方新社『福祉を拓く-現代福祉の諸論-』に所収/2021年)等多数。
