(オープン前、他の拠点からの応援も得て、気勢を上げる食事処「やぶ勝」の皆さん)

6月11日(土)、青年海外協力協会(JOCA)が鳥取県南部町で長年準備してきた新たな拠点「JOCA南部・法勝寺温泉」が開設しました。オープンの記念式典にはお子さんから高齢の方々まで多くの皆さんが集まってくだいました。お子さん連れの若いお母さんに「建物の中にお入りになった印象はいかがですか?」と声をかけると、

「これまでの南部町にはなかったかっこよさ、ですね」。

別のお母さんは、「小学生には学童など地域に居場所があるけれど、中学生はあまり行くところがないので、ここに集まれればいいと思います。そして地元のお年寄り。わざわざ遠出しないでも、歩いて温泉に入りにこられるので、私もおばあちゃんを連れてきます」

南部町の拠点は、子ども、若者、高齢者、障害のあるなし、認知症の人も、そうでない人も、日本人も外国人も分け隔てなく、みんなが互いに関りながら、「ごちゃまぜ」で過ごすことのできる空間――ということは聞いていたものの、住民の方々が実際の建物を見るのは今日が初めて。外見は落ち着いたシックな感じながら、なかに入ると、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさ。食事処「やぶ勝」は、店内にあえて段差がつけ、さらに中二階も設けるというアンジュレーション(ゴルフコースに見られるような起伏)を意識したつくりで、ちょっとした隠れ家気分も味わえます。

ひとり遊びにも最適

記念式典の冒頭、JOCAの雄谷会長は、「ぼくたち青年海外協力隊の経験者の多くは、途上国へ支援に行きます。そして、日本のように社会保障が整備されていないにもかかわらず、人と人とがつながりあって笑顔で暮らしている現地の方々と出会い、たくさんのことを教えられて帰ってくる。『十分にやりきれなかった』『この経験の恩返しがしたい』といった思いをもって、ぼくらが南部町を初めて訪れたのは8年前のことでした。当時の坂本町長、そして現在の陶山町長とお会いし、地域の皆さんに助けられて、今日にいたりましたこと、皆さんに感謝申し上げます」

参加された住民の方々の多くが「ここを中心にまちに賑わいが戻れば」とおっしゃっていましたが、同会長はこうも語っています。

「(ぼくらが初めて南部町を訪れた)当時、ここにかつての宿場町だった面影と空気を感じました。赤い暖簾や幟に使っているのは伝統的な家紋「四つ割り櫻に結び四ツ目」です。法勝寺川の向こうには桜並木が美しい史跡のある法勝寺城山公園があります。そして結び四ツ目は「人と人とのむすびつき」。ここは昭和48年に閉校した法勝寺高校の跡地であり、露天風呂の壁に校歌を記しました。『法勝寺』や『大山』などの言葉が散りばめられた素晴らしい歌詞です。こうした伝統を大切にしながら、この場所を皆さんと一緒に育てていきたいと思います」

続く来賓の方々の挨拶で陶山町長は、「初めて雄谷会長、そして堀田事務局長とお会いしたとき、『ごちゃまぜ』とはどういうものかよくわかりませんでした。堀田局長からは『私たちはここで住民自治がしたい』と言われたのですが、行政に携わる者として『自治はあんまり喜んでするものではないのではないか』と思ったのです。自治会長のなり手さえ探すのは難しい世の中でしたから。ところが、今日、まちのなかに(「四つ割り櫻に結び四ツ目」の家紋がデザインされた)赤い幟や旗がたなびき、地域の方々が胸を張って歩いている姿を見て、皆さんが『ここをどんなところにしたいのか』を考え、『今日一日楽しかったなあ』と思えることが自治なのだろうと」

「青年海外協力隊の皆さんは見ず知らずの国へ支援にいくわけですが、『自分たちがトンネルを貫通させない』ことを心得ていると聞きました。自分たちが掘るのではなく、地元の方々が掘るようにサポートするというのです。ここ法勝寺でも、地域の方々がどんな場所にしたいのかを考え、JOCAの皆さんと一緒に取り組んでいく。今日はその始まりの日だと思っています」

南部町の人はとても温かい--そう言っておられたのは拠点の近くに立つ本紹寺の田中さんです。田中さんは東京生まれ。20代の時にお嫁に来たそうで、「まったく環境が違うところでの生活はたいへんだったのでは?」とお聞きしたところ、

「いえいえ、みなさん『しゃーばやき』でいろいろ助けてくれて、すぐに南部町が好きになりました」。「しゃーばやき」とは「面倒見のいい」という意味だそうです。

「私が東京に里帰りしないので、心配した家族や親戚、お友だちが南部町に様子を見に来たくらい(笑)」

ここ数年、コロナ禍で人と人との交流ができなくなっていたので、「この拠点にたくさんの人が集まってくれればうれしい」ともおっしゃっていました。

田中さん(右)とお友だちの皆さん

陶山町長に続き、南部町議会議長の影山さんは、「法勝寺温泉で多くの方に交流を深めていただきたい。JOCAは就労継続支援も取り組んでいます。今後は高齢者福祉にも取り組まれ、名実ともに『生涯活躍のまち』になることを願っています」

そして法勝寺地区自治会長の枝野さんも、「法勝寺に再び賑わいを取り戻し、みなさんの憩いの場になることを」と話されていました。

乾杯の挨拶は坂本前町長がされました。

「8年前に雄谷さんに会って『ごちゃまぜ』に共鳴したのがそもそもの始まり。その翌年にはJOCAの亀山さんが南部町に来て、その後は多くの優秀なスタッフの皆さんを連れてきてくださり、こうして拠点ができたことをうれしく思います。ちなみに、私の前任の磯田町長時代、何度も温泉の試掘をしたのに出ませんでした。今日は法勝寺温泉のお湯を少し汲んで、それをもって磯田さんのお墓参りに行こうと思っています」

乾杯の後はJOCA南部カラフル「つばめ」の踊り、スポnetなんぶのストリートダンス、サイカッツバンドの演奏、そしてなんぶ太鼓と素晴らしい演目が続き、かつての賑やかさがよみがえったかのようでした。

法勝寺高校があった当時の記憶が鮮明にあるという男性は、「女性同士に比べると男性同士が仲良くなるのは時間がかかるけれども、いったん仲良くなれば、(つきあいは)長く続く。(法勝寺温泉が)そのきっかけになるような場所になれば」と期待されていました。

これからウェルネスの建設など2期工事も控えている法勝寺温泉。思わぬ出会いがたくさん生まれそうです。

ご家族連れの方がたくさんいらっしゃいました。

なお、本HPには南部町の陶山町長ならびにJOCA南部の亀山代表へのインタビューも掲載しています。ご一読ください。

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