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今月のおススメ本は、村木厚子著『おどろきの刑事司法 ”犯罪者”の作り方』(講談社現代新書)
現在、全国社会福祉協議会会長を務める著者は、これまで記してきた多くの著作で、厚生労働省勤務時代に「郵便不正事件」なる冤罪で逮捕・拘留された経験とその背景について語ってきた。最新作では、さらに踏み込んで、この国の刑事司法が抱える問題の深さに言及している。
前半は自身が強いられた理不尽極まりない尋問の様子から始まる。私たちは「こちらが正しいのだから事実をありのままに話せば検察官はきちんと調書にして誤解を解いてくれる」と思いがちだが、相手はそれを歯牙にもかけず、被疑者を追い込んでいく。「有罪率99.9%」は「疑わしきは被告人の利益に」や「10の真犯人を逃すとも、1の無辜を罰するなかれ」という近代法の基本原則や格言からあまりに乖離した数字だが、むしろ「10の事件を解決するためには、1件くらい冤罪があっても仕方がない」と考えているふしがある。だから誤認逮捕から再審無罪確定まで58年余り、ほぼ一生を棒に振った袴田巌さんへの謝罪の気持ちが生まれない。裁判官は自分の書いた再審決定が上級審で翻されると、自身の事実認定能力や法律判断力に疑問符が付けられるので、なかなか再審決定を下せないという。
後半では上述の袴田事件をはじめ、戦後の数々の冤罪事件を取り上げる。なかでも記憶に新しいのは大川原化工機事件だろう。同社の大川原正明社長、島田順司常務取締役、相嶋静夫技術顧問が、警視庁公安部による「生物化学兵器に転用可能な噴霧乾燥機を経済産業大臣の許可を得ずに中国へ輸出した」という容疑で逮捕、起訴された。東京地検の検察官は3名の反論にまともに取り合わず、その後の捜査で立証が困難と判明すると、初公判直前になって起訴を取り消し。裁判所は控訴棄却を決定した。この間に進行性胃癌と診断された相嶋さんは、弁護人の保釈請求が裁判所から却下されたことで十分な治療が受けられず、被告人のまま亡くなった。
同事件で幹部3名を起訴した東京地検の検事は、著者が起訴された当時、大阪地検に在籍しており、「村木さんはやっていない」と周囲に語っていたという。問題は個人ではなく、組織にあるのは明白だ。
著者は膨大な量の資料を渉猟し、関係者への取材も重ねたのだろう。司法改革を求める出発点は自身の冤罪事件であるが、本書の意図は「被疑者・被告人の権利を守る」に留まらない。「検察官や裁判官が、本来あるべき姿で職務に向き合えるようにする」ことも見据えている。だからこそ国民的な議論が必要だという本書は、それを喚起するに十分な力をもっている。(芳地隆之)
