島根半島から北へ約60km、日本海に浮かぶ隠岐諸島は、大き島前(どうぜん)と島後(どうご)に分かれ、島前火山のカルデラで形成された島前地域は、西ノ島町(西ノ島)、海士町(中ノ島)、知夫村(知夫里島)の三島三町村で構成されている。そこにある唯一の公立高等学校、隠岐島前高校は、人口が減少していくなか、このままでは廃校になることは避けられないと思われていた。
 問題は、高校がなくなることだけではない。子どもたちは中学校を卒業すると島を離れざるをえず、それにともなって家族も一緒に本土へ移住する。そんな状況が続けば、早晩、島の存続そのものが問われることになる。
 そんななか、海士町役場の財政課長だった吉本操は2006年、ソニーで人材育成に携わっていた本書の著者のひとり、岩本悠を出前講座の講師として島に連れてきた。岩本は、島の状況を見て、「一燈照隅、万燈照国」という言葉を思い浮かべた。人口減少、少子高齢化、雇用縮小、財政難という日本が抱える問題に直面しているここで、それを克服する成功モデルをつくれば、隠岐諸島だけでなく、日本、さらに世界にも広がっていく――岩本は島へ行く決断をする。
 そこからの悪戦苦闘ぶりは、ぜひ本書を読んでいただきたい。島民が諸手を挙げて歓迎したわけではない。個人プレー、自分のやり方を変えない、酒を飲んでもくだをまかない、人を指さす、いつまで島にいるかわからない……。島民から自分への不満を吐き出してもらった岩本は、「島を変える」ことよりも「自分が変わる」ことを優先し、そこから、本土からの島留学、人との出会いを前面に出した観光プラン、学力がまちまちの生徒に対する選択肢のある学習指導など、さまざまなアイデアが生まれ、実践されていく。生徒たちが生き生きしていく様子が文面から伝わってくる。
 人とのつながり、文化の継承、まちづくりなどの役割を果たす学校という存在が、地域の未来にとっていかに大きな意味を持つのかをあらためて実感する。
 タイトルは「未来を変える」ではなく、「未来を変えた」。高校がなくなれば、島に住む人はいなくなってしまうだろう――そんな島民の諦観が、あの手この手で高校をよくしていこうという試みによって、これまで見えていた未来のイメージを変えていった。
 岩本を呼んだ行政、初めは胡散臭い目で著者たちを見ていた住民、そして教師。それぞれ立場の違う人たちが、同じ方向を向いていく過程が本書の醍醐味だ。共著者である元海士町長・山内道雄氏の前文「僻遠からの狼煙」からしてエキサイティングである。(芳地隆之)